かにクレーンとは?特徴や用途、運転・作業に必要な資格を解説
かにクレーンは、その名前の通り「かに」のようにコンパクトで柔軟性のある小型クレーンの一種です。スペースが狭かったり機動力が求められたりする現場での使用に適しており、工事現場や屋内作業、住宅地での設備設置など、さまざまな場面で活躍しています。
一般的なクレーンと異なり、かにクレーンは四つ足(アウトリガー)を広げて地面に安定して設置できるため、狭い場所でも安定した作業が可能です。サイズが小さいため持ち運び・設置が容易で、大型クレーンでは対応しにくい場所で使用可能な点も特徴的です。
本記事では、かにクレーンの基本的な特徴や主な用途、運転・作業に必要な資格について詳しく解説します。かにクレーンの導入や運転資格の取得を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
かにクレーンとは?
かにクレーンは、「カニのような見た目」を持つことから前田製作所の商品名として誕生した小型クレーンの一種です。別名「ミニクローラークレーン」とも呼ばれるほか、アウトリガー(※)の形状がクモの足に似ているため「クモクレーン」とも称されます。英語では「Spider Crane」という表現が一般的に使われています。
※車体から腕のように張り出して設置させることで吊り荷による転倒を防止する装置
かにクレーンは、クローラークレーンの一種で、クローラーでの移動が可能です。クローラーは接地面積が広く、不整地や軟弱地盤での走行に優れるため、舗装されていない作業現場でも安定して作業を行うことができます。ただし、非常に小型であるため専用の運転席はなく、操作パネルを使って人が歩く程度の速度で移動させます。
かにクレーンでは作業時にアウトリガーを展開します。カニクレーンのアウトリガーは、カニの足のように四方に広がる形状をしており、通常のクレーンに比べて地面への接地面積が広いのが特徴です。この広い接地面積により、狭いスペースでも高い安定性を確保できるため、複雑な作業現場で特に役立ちます。
かにクレーンが誕生したのは1980年のことで、初期はトラック搭載型でした。開発・製造を手掛ける前田製作所ではニーズの多様化や安全性の要請などに応えながら、現在も新たな機種のリリースを続けています。
かにクレーンが分類されるクローラークレーンについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
クローラークレーンとは?種類や4.9tクラスの需要、免許を解説
かにクレーンの特徴
本章では、かにクレーンに見られる主な特徴として3つの内容をピックアップし、順番に詳しく解説します。
特徴①いかなる地形にも対応できる
かにクレーンは、ゴムクローラー(ゴム製の履帯)を備えています。ゴムクローラーは接地面積が広く、接地圧が小さいため、軟らかい地盤や未舗装の路面でも使用できる点が魅力です。また、ゴム製であるため、舗装された路面でも安全に移動が可能です。
ただし、クレーン等安全規則によって、軟弱な地面では原則として移動式クレーンの使用は禁止されています(十分な広さと強度を備えた鉄板を敷くことで使用が許可される場合もあります)。
また、かにクレーンを使用する際には、表示されている吊り上げ荷重を超えないことが重要です。法令に従い、製造元が定めた範囲内での適正な使用を守りながら、転倒事故のリスクを防ぎましょう。
参考:中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター「クレーン等安全規則 第三章 移動式クレーン(第五十三条-第九十三条)」
特徴②コンパクトなデザインとユニークなアウトリガーを備える
かにクレーンは、コンパクトに設計されており、走行時の車体の幅は一般的に600mm程度しかありません。走行中は4本のアウトリガーが格納され、クレーン作業時に展開する仕組みです。このアウトリガーは形状や角度を調整できるユニークな構造をしており、狭い廊下や室内での移動や設置作業を容易にするだけでなく、複雑な地形での安定性も確保します。
また、かにクレーンは、設置場所のスペースに応じてアウトリガーの張り出し長さを調整でき、段差や障害物を避けて張り出しの角度も調節できるよう設計されています。そのため、例えば、狭い通路や限られたスペースでの作業、室内のリフォーム作業などでも大いに活躍しています。
特徴③優れた輸送性と空輸対応能力
かにクレーンは、コンパクトで輸送が容易であり、トラックの荷台にも効率的に積載可能です。特に1.2tクラスの小型かにクレーンなら、2tロング車の荷台に横積みできて、スペースを有効活用できます。
一方で、大型のかにクレーンには「分割仕様」が多く、部品ごとに分解できるため、搬入が難しい工事現場で役立ちます。
アウトリガーやブーム(※1)、走行装置などが分離できるため、索道(※2)やヘリコプターでの運搬も可能です。山間部や鉄塔設置現場など、大型車両が進入できない場所では、各部品をヘリで吊り上げて山頂などに運び、現地で組み立てて使用できるので非常に便利です。
※1:クレーンの上部本体に取り付けられている長い棒状の部分で、クレーンの腕にあたる。ブームは長さを調節でき、ブームの段数によって長さが異なる。
※2:空中に架け渡した索条(ワイヤーロープ)に搬器を懸垂して旅客・貨物を運送する施設のこと
かにクレーンの用途
もともと、かにクレーンは、狭い通路が多い日本の墓地で墓石を設置するための重機として開発されました。墓地では大型のクレーンが入れない狭い通路や不整地が多いため、小型で高い機動性を持ち、かつ吊り上げ能力のある機械が求められていました。これに応える形で、かにクレーンが登場したのです。現在では、世界中で墓石や庭石、記念碑などの設置作業に活用されています。
また、コンパクトなミニクローラーとしての特性を生かし、建物内部や狭い場所での作業にも幅広く利用されています。例えば、建築現場では、ビル内部のリフォーム工事で重い資材を搬入する際や、屋上での鉄筋設置作業に使用されます。また、美術館や中庭では、重い美術品や展示物の設置に役立つほか、狭いスペースでの精密な作業が求められる場面でも活躍しています。
かにクレーンは、ゴムクローラーを装備しているため、舗装の実施有無を問わず幅広い場所で使用可能です。前田製作所の発表によれば、空港や駅構内、ダム建設現場といった公共工事での資材や型枠の吊り上げ作業、住宅建設をはじめ多様な現場で役立っています。
サイズによる違い
かにクレーンは、サイズによって特徴や用途が異なります。下表に、主要サイズごとに見たかにクレーンの特徴をまとめました。
サイズ | 主な特徴 |
---|---|
1.2~1.7tクラス | かにクレーンの中でも小型クラスで車体の幅が約60cm程度であり、一般的なドアからの搬入はもちろん、建設用エレベーターにも容易に乗せられる。狭い通路や部屋内での移動に適しており、直角通路でもスムーズに走行できる。 |
2.0~2.5tクラス | 狭い道や細い現場通路、カーブが多い場所でも扱いやすい。5段ブームが主流で、設置パターンも多いため、効率的にクレーン作業を進められる。 |
3.8~4.0tクラス | 一般的に乗車型で、長時間の作業に適しており、建設や土木で使用されることが多い。分解もしくは自動分解が可能なモデルが多く、索道やヘリコプターでの搬送も可能。ワンタッチカプラー(※)により油圧配管などの接続や分解が容易になり、作業の効率化が図れる。 |
5.0tクラス | 大型展示物や鉄骨、コンクリート製品など重い物の吊り上げに適している。安全機能も充実しており、広範囲での作業が可能なので、広いスペースや屋上、屋外での使用が多い。 |
※:高圧ホース等を接続する際に、その着脱を簡単にするためのジョイントパーツ
かにクレーンの運転・作業に必要な資格
かにクレーンの運転および作業を行うためには、それぞれ所定の資格の取得が求められます。
小型移動式クレーン運転技能講習
まず、かにクレーンの運転(作業現場内での移動)には、小型移動式クレーン運転技能講習を修了する必要があります。
以下に、小型移動式クレーン運転技能講習の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 25,000円〜50,000円前後 |
日数 | 通常20時間(学科13時間、実技7時間)※3日間 |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関 |
参考HP | https://www.komatsu-kyoshujo.co.jp/KkjReservation/Subjects/CourseListSkillSmallCrane.aspx |
小型移動式クレーン運転技能講習を修了すると、かにクレーン以外にも、吊り上げ荷重5t未満の移動式クレーン(例:小型のトラッククレーン)を運転できるようになります。
トラッククレーンをはじめとする移動式クレーンについて、詳細は以下の記事で解説しています。
トラッククレーンとは?種類や他の移動式クレーンとの違い、免許を解説
なお、かにクレーンは、クローラーを装着しており、道路交通法に基づく各種運転免許(例:普通免許、中型免許、大型免許など)を取得しても公道を走行できない点には注意してください。これは、クローラー車両が舗装道路での使用を前提としていないためであり、舗装面を損傷する恐れがあるためです。そのため、かにクレーンを移動させる場合は、トラックなどでの運搬が必要となります。
玉掛け技能講習
次に、かにクレーンでの玉掛け作業には、玉掛け技能講習の修了が求められます。
下表に、玉掛け技能講習の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 40,000円前後 |
日数 | 30時間(3日間) |
講習内容 | 【学科(18時間)】 ・クレーン、移動式クレーン、デリック及び揚貨装置に関する知識 ・クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識 ・クレーン等の玉掛けの方法 ・関係法令【実技(12時間)】 ・クレーン等の玉掛け ・クレーン等の運転のための合図 |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関 |
玉掛け技能講習を修了すると、かにクレーンを含めた以下の重機による玉掛け作業が可能となります。
- 制限荷重1t以上の揚貨装置
- 吊り上げ荷重1t以上のクレーン・移動式クレーン・デリック
玉掛け技能講習について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しくまとめています。併せてお読みいただくことで、講習の内容や合格のコツを把握できますので、講習を受ける前にぜひご覧ください。
玉掛け技能講習とは?内容や費用、合格率、特別教育との違いを解説
かにクレーンのメーカー
本章では、かにクレーンの主要メーカーとそれぞれの機種の一例をピックアップして紹介します。
- 前田製作所
- 古河ユニック
なお、かにクレーンには様々な機種があり、ここで取り上げていないメーカー・機種も存在します。ご自身・自社の用途に合わせて、適切なかにクレーンを選ぶことが大切です。
前田製作所
長野県長野市に本社を置く重機メーカーです。パイオニアであり、「かにクレーン」の名前で商標登録して製造・販売しています。車両搭載型クレーンや高所作業車なども取り扱っているほか、コマツ製品を扱う総販売店でもあります。
下表に、前田製作所が提供している、かにクレーンの機種例と特徴をまとめました。
型式 | 機械質量 (電動仕様) |
吊り上げ荷重 | 最大作業半径 | 最大地上揚程 |
---|---|---|---|---|
MC174CRM | 1,290kg | 1.72t | 5.17m | 5.5m |
MC285C-3 | 1,990kg (2,160kg) |
2.82t | 8.205m | 8.7m |
MC305C-3 | 3,900kg (4,040kg) |
2.98t | 12.16m | 12.5m |
古河ユニック
東京都千代田区に本社を置く古河グループの重機メーカーです。トラック搭載型クレーン「ユニック車」のリーディングカンパニーとして知られています。
「ミニ・クローラクレーン」の名前で、かにクレーンの製造を手掛けています。
下表に、古河ユニックが提供している、かにクレーンの機種例と特徴をまとめました。
型式 | 機械質量 | 吊り上げ荷重 | 最大作業半径 | 最大地上揚程 |
---|---|---|---|---|
URW174CP2 | 1,210kg | 1.73t | 5.17m | 5.7m |
URW295CB3 | 2,290k | 2.93t | 8.41m | 8.9m |
URW376C4M | 4,075kg | 2.93t | 14.45m | 14.9m |
かにクレーンをはじめとする重機のメーカーについて理解を深めたい場合は、以下の記事に詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
重機メーカーの一覧【国内、海外別に30社】
まとめ
かにクレーンは、優れた機動力とコンパクトさを生かし、狭小地や複雑な作業環境などでの作業に最適なクレーンです。アウトリガーによる安定性と、小型ながらも優れた吊り上げ能力を持つことから、幅広い用途に対応しています。
かにクレーンの運転・作業には安全性が求められるため、所定の資格の取得が不可欠です。本記事で解説した内容を参考に、安全で効率的な使用方法や資格取得について理解を深め、作業現場でのスムーズな運用にお役立てください。