クレーンのアウトリガーとは?役割や種類、X型・H型の違いを解説
本来、アウトリガーとは船の安定性を向上させるために船体の側面に取り付けられる補助的な構造を指します。現在は船舶に限らず、安定性を向上させるために側面へ突き出して設置される装置全般を指す言葉として用いられます。
建設業界では、クレーン車に取り付けられたアウトリガーがよく見られます。これにより、作業中のバランスを保ち、転倒を防ぐ役割を果たします。
アウトリガーにはいくつかの種類があるほか、X型・H型といった分類もあります。それぞれの特徴を理解し、現場の条件に適したアウトリガーを選択することで、安全で効率的な作業が可能です。
本記事では、アウトリガーの役割や種類、X型・H型の違いについて詳しく解説します。アウトリガーを適切に導入・活用し、クレーン作業の安定性向上を図りたい建設事業者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
アウトリガーとは?
アウトリガーとは、クレーン車の左右に取り付けられた装置のことです。クレーンを使用する際に車両の転倒を防ぐ役割を持ちます。
クレーン作業時に車両の側面からアウトリガーを張り出し、地面にしっかりと接地させることで、荷重がアウトリガーを通じて地面に分散されます。これにより、タイヤだけでは支えきれない力を効果的に地面へ逃がすことができ、車両の傾きを抑えます。
その結果、クレーン車の全体的な安定性が向上し、安全な作業が可能になります。
アウトリガーの役割
アウトリガーの役割は、クレーン車で重い荷物を吊り上げる際に車両の転倒を防ぐことです。
クレーン車が荷物を吊り上げる際、クレーンのアーム(ブーム)が伸び、荷物が支点から遠い位置にあるほど、てこの原理により回転力(モーメント)が大きくなります。
このモーメントにより、車体が反対側へ傾く力が生じ、最悪の場合、転倒につながります。そのため、クレーン車は自重とタイヤの接地圧だけでバランスを保つ必要があります。
しかし、クレーン車のタイヤやサスペンションは柔軟性が高いため、アウトリガーを使用しないと、少し動かしただけで車体が大きく揺れてしまい、安定した作業ができません。
そこで、アウトリガーをしっかりと張り出すことで、車体を安定させ、スムーズに作業を行えるようになります。アウトリガーを使用することで、揺れを抑制し、作業機の操作性を向上させます。
ただし、アウトリガーを設置する地盤の状態によって安定性が大きく変わるため、クレーン作業前には十分な確認が必要です。
実際に「クレーン等安全規則」において、アウトリガーを使用する移動式クレーンを用いて作業を行う際は、鉄板など移動式クレーンが転倒するおそれのない位置にアウトリガーを設置しなければならないことが定められています。
アウトリガーの種類
クレーン車に取り付けられるアウトリガーには、大まかに以下の3種類があります。
- リアアウトリガー
- 差し違いアウトリガー
- ハイアウトリガー
それぞれの種類に見られる特徴について、順番に詳しく解説します。
リアアウトリガー
リアアウトリガーとは、通常のアウトリガーに加えて車両の後方にも設置されることで、より安定性を高められるタイプの装置です。
通常のアウトリガーは、車両の前方(キャビンと荷台の間)の左右2ヶ所に設置されます。これに対して、リアアウトリガーは後方の左右にも追加され、合計4ヶ所に配置されています。結果として、より広い支えを確保できるため、安定性が大幅に向上します。
リアアウトリガーは、高い安定性を生かして高所作業車や重量物の吊り上げ作業、傾斜地での作業など、バランスが求められる場面で活躍しています。
差し違いアウトリガー
差し違いアウトリガーとは、左右のアウトリガーが前後にずれて格納される構造のアウトリガーです。この仕組みにより、左右に大きく張り出すことが可能となり、高い安定性を確保できます。
差し違いアウトリガーは、使い勝手の良さからクレーン車の標準的なタイプとして広く採用されています。とりわけ大型のクレーン車では安定性が重視されるため、多くの車両が差し違いアウトリガーを搭載しています。
ハイアウトリガー
ハイアウトリガーとは、縦方向に長く伸びるタイプのアウトリガーで、主に重機を運搬するトラックに搭載されています。
ハイアウトリガーは、車体の前方を持ち上げるために設計されたもので、荷台を後方に向けて適切な角度に傾斜させる役割を果たします。この傾斜によって、重機や車両をスムーズに荷台へ積み降ろしできるため、作業の効率化に貢献します。
この仕組みにより、荷台の後方から重機や車両をスムーズに積み降ろしできるため、効率的な作業が可能です。特に、大型の建設機械や特殊車両を運搬する場面で活躍しています。
アウトリガーのX型・H型の特徴と違い
クレーン車で用いられているアウトリガーには、X型・H型といった分類も存在します。本章では、X型とH型それぞれの特徴と違いについて解説します。
X型アウトリガー
X型アウトリガーとは、車体の端部を支点にして設置され、油圧ジャッキシリンダによって対角方向に傾けることで、支えの範囲を広げる仕組みのアウトリガーです。
さらに、スライドシリンダを用いて地面へしっかりと接地させることで、荷重を分散し、安定性を確保します。この構造により、H型アウトリガーと比べて、狭いスペースでも張り出しやすいのが特徴です
もう一方のアウトリガーは、この構造と左右対称になるように配置され、全体としてX字型の形状を形成します。画像をご参照ください。
また、X型アウトリガーは、車体下部から斜めに張り出す構造になっており、設置環境によっては横幅を抑えながらも安定性を確保しやすいのが特徴です。さらに、足場や障害物の下を通して設置できるため、限られたスペースでも活用しやすい利点があります。
H型アウトリガー
H型アウトリガーとは、クレーンのブームと似た箱型構造を持つアウトリガーです。このタイプは、アウトリガーアウタボックス(外箱)の中にアウトリガインナボックス(内箱)が収納されており、作業時には車両の左右へ張り出して使用します。
先端部分にはジャッキアウタボックス(外箱)があり、その内部にジャッキインナボックス(内箱)が収められています。ジャッキインナボックスは油圧によって上下に伸縮し、地盤にしっかりと接地できる仕組みになっています。
また、接地面積を広げるためにフロートが取り付けられており、安定性を向上させています。
H型アウトリガーは、直線的に張り出す構造のため、張り出し幅を正確に調整しやすく、安定した支えを確保しやすい点が特徴です。また、配管や縁石、低い植栽などをまたぐ形で設置できるため、現場の状況に応じた柔軟な運用が可能です。
X型とH型の違い
ここまでの説明を踏まえて、下表にX型とH型の主な違いをまとめました。
比較項目 | X型アウトリガー | H型アウトリガー |
---|---|---|
形状 | X字型に対角方向へ張り出す | 水平に張り出す箱型構造 |
安定性 | 横幅を広げずに安定性を確保 | 設置位置が明確で、広範囲に設置可能 |
設置環境 | 足場や障害物の下を通せる | 縁石や障害物をまたぐことが可能 |
主な用途 | 狭い現場や限られたスペースでの作業 | クレーン車や大型作業車 |
なお、いずれのタイプのアウトリガーも、適切な張り出し幅を確保することで安定性を向上させることが可能です。現場の状況に応じて対応できるよう、最小張出や中間張出が可能な設計になっています。
また、いずれのタイプでも、安全に作業を行うためには地面の状態を念入りに確認することが重要です。必要に応じて鉄板を敷くなどの補強対策を行い、安定した作業環境を確保することが求められます。
アウトリガーをより理解するには、クレーン車の仕組みを知ることも重要です。以下の記事では、クレーン車の種類や免許、メーカーについて詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
まとめ
アウトリガーは、クレーン作業時の安全性を確保するために欠かせない装置です。作業車両の安定性を向上させ、転倒のリスクを軽減する役割を果たします。特に、不整地や傾斜地での作業では、アウトリガーの適切な使用が不可欠です。
適切なアウトリガーの選定と運用により、クレーンの転倒リスクを軽減し、作業の安定性を確保できます。その結果、作業効率の向上や事故防止につながります。X型とH型の違いも理解し、現場の状況に応じて最適なアウトリガーを導入しましょう。
また、設置方法や荷重バランスの管理を徹底することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
安全で確実なクレーン作業を実現するために、アウトリガーの役割と使用方法を正しく理解し、適切に活用しましょう。