移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
移動式クレーンは、建設現場や物流施設などで広く利用されている重機であり、その操作には専門的な知識と技術が求められます。移動式クレーンを安全かつ効率的に操作するためには、適切な免許を取得することが法律で義務付けられています。
この記事では、移動式クレーン免許の概要や取得する際の流れ、必要な費用、学科試験・実技試験の内容と対策についてわかりやすく説明します。これから移動式クレーン免許の取得を検討している方は、ぜひ本記事を参考にして、スムーズな取得を目指しましょう。
目次
移動式クレーン免許とは?
移動式クレーン免許とは、労働安全衛生法に定められている国家資格であり、移動式クレーンを安全かつ適切に操作するために求められる資格のことです。「移動式クレーン運転士免許」とも呼ばれています。
移動式クレーンは、「荷を動力を用いてつり上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械装置で、原動機を内蔵し、かつ、不特定の場所に移動させることができるもの」と定義されています。移動式クレーンには、例えばトラッククレーンやラフタークレーン、オールテレーンクレーン、クローラークレーンなどが該当します。移動式クレーン各種について、以下の記事でそれぞれ詳細に解説しておりますので、乗車する予定があるものについては理解を深めましょう。
トラッククレーンとは?種類や他の移動式クレーンとの違い、免許を解説
ラフタークレーンとは?サイズやメーカー、免許を解説
オールテレーンクレーンとは?ラフタークレーンとの違い、免許を解説
クローラークレーンとは?種類や4.9tクラスの需要、免許を解説
所定の学科と実技試験に合格し、移動式クレーン免許を取得することで、吊り上げ荷重5t以上のものを含めて、すべての移動式クレーンを運転できるようになります。これにより、建設現場や物流施設などで移動式クレーンを用いた作業が可能となり、仕事の幅も広がります。
下表に、移動式クレーン運転士免許の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
教習受講費用 | 130,000円〜160,000円程度 |
試験内容・日数 | 【学科(13:30~16:00、2時間30分)※科目免除者は13:30~15:30(2時間)】
・移動式クレーンに関する知識:10問(30点) 【実技(時間は午前・午後に分けて受験票に記載)】 |
受験資格 | 18歳以上 |
申込先 | 公益財団法人安全衛生技術試験協会、各地の安全衛生技術センターなど |
参考HP | https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku232.htm |
一般道路で移動式クレーンを運転するためには、クレーンの土台部分に対応する自動車運転免許(例:大型特殊免許、大型免許など)の取得が別途求められます。
参考:一般社団法人 日本クレーン協会「移動式クレーンの知識」
移動式クレーン免許取得の流れ
移動式クレーン運転士免許を取得するためには、全国8カ所(北海道、宮城県、千葉県、東京都、愛知県、兵庫県、広島県、福岡県)に設置されている安全衛生技術センターで行われる「学科試験」および「実技試験」に合格しなければなりません。
なお、各都道府県労働局長登録教習機関(クレーン学校、教習所)において「移動式クレーン運転実技教習」を受講した上で修了試験に合格すれば、安全衛生技術センターでの実技試験は免除されます。
下表に、移動式クレーン運転実技教習の内容をまとめました。
科目 | 教育時間 |
---|---|
移動式クレーンの基本運転 | 4時間 |
移動式クレーンの応用運転 | 4時間 |
移動式クレーンの合図の作業 | 1時間 |
移動式クレーン運転実技教習の修了試験に合格した後は、安全衛生センターにて学科試験に合格すれば、移動式クレーン運転士の免許を取得できます。
なお、登録教習機関を利用すれば、学科試験の前に学科教習を受けることが可能です。移動式クレーン運転士の学科教習の内容と時間を以下に示しました。
科目 | 教育時間 |
---|---|
移動式クレーンに関する知識 | 3時間 |
原動機及び電気に関する知識 | 3時間 |
関係法令 | 4時間 |
移動式クレーンの運転のために必要な力学に関する知識 | 2時間 |
参考:公益財団法人 安全衛生技術協会「本部、各センターのご案内」
コマツ教習所「移動式クレーン運転実技教習」
ロイヤルパワーアップスクール「移動式クレーン免許の取り方」
移動式クレーン免許の費用
移動式クレーン運転士免許を取得するために各都道府県労働局長登録教習機関で教習を受講する場合で、130,000円〜160,000円程度の費用が必要です。
上記に加えて、試験手数料の支払いも求められます。移動式クレーン運転士免許の取得にかかる試験手数料は、学科試験で8,800円、実技試験で14,000円です(2024年8月現在)。
移動式クレーン免許の試験
下表に、移動式クレーン運転士免許の基本的な試験情報をまとめました。
試験種別 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
学科試験 | 5,080人 | 3,234人 | 63.7% |
実技試験 | 461人 | 297人 | 64.4% |
※令和5年時点のデータ
学科試験・実技試験どちらも、教習内容をしっかり理解しておけば、移動式クレーン運転士試験の難易度は決して高いものではありません。
参考:公益財団法人 安全衛生技術協会「統計|労働安全衛生法・作業環境測定法に基づく試験」
移動式クレーン免許の学科試験
下表に、移動式クレーン運転士免許の学科試験の概要をまとめました。
種類 | 試験科目 | 試験範囲 |
---|---|---|
学科 | 移動式クレーンに関する知識 | 種類及び型式、主要構造部分、つり上げ、起伏、旋回等の作動をする装置、安全装置、ブレーキ機能、取扱い方法 |
原動機及び電気に関する知識 | 内燃機関、蒸気機関、油圧駆動装置、感電による危険性 | |
関係法令 | 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、安衛則及びクレーン則中の関係条項 | |
移動式クレーンの運転のために必要な力学に関する知識 | 力(合成、分解、つり合い及びモーメント)、重心、重量、速度及び加速度、荷重、応力、材料の強さ、ワイヤロープ、フック及びつり具の強さ、ワイヤロープの掛け方と荷重との関係 |
学科試験は、移動式クレーンを安全かつ正確に運転するために必要な知識が備わっているかどうかがチェックされます。出題形式は5肢択一で、出題数は全科目を通じて40~50題となっています。
続いて、学科試験の過去問の例を一つ紹介します。
問 | 移動式クレーンに関する用語の記述として、適切なものは次のうちどれか。 |
---|---|
選択肢 | ①作業半径とは、ジブフートピンの中心からジブポイントまでの距離をいい、ジブの傾斜角を変えると作業半径が変化する。
②定格荷重とは、移動式クレーンの構造及び材料に応じて負荷させることができる最大の荷重をいい、フックなどのつり具分が含まれる。 ③定格速度とは、定格荷重に相当する荷重の荷をつって、つり上げ、旋回などの作動を行う場合の、それぞれの最高の速度をいう。 ④ジブの起伏とは、ジブが取り付けられたピンを支点として傾斜角を変える運動をいい、傾斜角を変える運動には、起伏シリンダの作動によるものと、巻上げ用ワイヤロープの巻取り、巻戻しによるものがある。 ⑤総揚程とは、ジブ長さを最長に、傾斜角を最大にしたときのつり具の上限位置と、ジブ長さを最短に、傾斜角を最小にしたときのつり具の上限位置との間の垂直距離をいう。 |
正解 | ③ |
学科試験の対策としては、指定の教本や資格取得に特化したテキストなどを使用して、基本的な知識の習得を目指すのが基本です。
特に重要なのは法令・安全対策に関する知識の習得で、過去の試験問題を繰り返し解くことをおすすめします。頻出問題や出題傾向が把握でき、効率的に勉強が進められるでしょう。
参考:公益財団法人 安全衛生技術協会「移動式クレーン運転士免許試験」
移動式クレーン免許の実技試験
下表に、移動式クレーン運転士免許の実技試験の概要をまとめました。
種類 | 試験科目 | 試験範囲 |
---|---|---|
実技 | 移動式クレーンの運転 | 重量を確認し、荷をつり上げ、定められた経路により運搬し、定められた位置に下ろすこと。 |
原動機及び電気に関する知識 | 荷をつり上げ、運搬し、又は卸すことについて、手、小旗等を用いて合図を行うこと。 |
実技試験では、移動式クレーンを安全かつ正確に運転するために必要な技能が備わっているかどうかがチェックされます。
実技試験の対策としては、実技教習での練習を徹底するのが基本です。実技教習では実際のクレーン操作を行います。指導員からのフィードバックを受け、操作の流れや細かい動作をしっかりと身に付けましょう。
また、安全確認の徹底も大切です。実技試験では、特に、安全確認が重要視されます。クレーン操作前の点検や作業中の周囲確認、荷を吊り上げる際の動作など、安全に配慮した操作を行いましょう。
移動式クレーンの具体的な操作手順を覚えておくことも欠かせません。実技では、荷を吊り上げ、移動させ、正確に降ろす一連の動作を行います。手順を頭に入れておき、スムーズに操作できるように練習しましょう。
参考:一般社団法人 日本クレーン協会「クレーン・デリック運転士免許試験及び移動式クレーン運転士免許試験規程」
移動式クレーンに関するその他の免許・資格
移動式クレーン運転士免許以外に、移動式クレーンに関する免許・資格には以下の2つが存在します。
- 小型移動式クレーン運転技能講習
- 移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育
上記の2つの免許・資格はあくまでも技能講習修了者または特別教育修了者であり、取得しても「移動式クレーン運転士」とは称呼されません。
操作する移動式クレーンの吊り上げ荷重によって、必要な免許資格が以下のとおり変動します。
吊り上げ荷重 | 移動式クレーン運転士 | 小型移動式クレーン 運転技能講習 |
移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育 |
---|---|---|---|
5t以上 | ⚪︎ | × | × |
1t〜5t未満 | ⚪︎ | ⚪︎ | × |
0.5t〜1t未満 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ |
※⚪️:その吊り上げ荷重の移動式クレーンの操縦が可能
なお、上記の免許・資格は、あくまでも操作する移動式クレーンの吊り上げ荷重(能力)によって区分されており、実際に吊り上げる荷の質量で区分されているものではありません。
ここからは、移動式クレーン運転士以外の2つの免許・資格について、順番に詳しく解説します。
小型移動式クレーン運転技能講習
小型移動式クレーン運転技能講習の概要を以下にまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 25,000円〜50,000円前後 |
日数 | 通常20時間(学科13時間、実技7時間) |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関 |
小型移動式クレーン運転技能講習を修了すると、吊り上げ荷重5t未満の移動式クレーンを操縦できるようになります。
受講資格は特に設けられていませんが、下表に記載している資格を持っていない場合は、3日間で20時間の講習を受講しなければなりません。
受講時間 | 保有している資格・業務経験 |
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13時間 | 鉱山にて吊り上げ荷重5t以上の移動式クレーンの業務経験が1ヶ月以上ある(事業主経験証明が必要) |
16時間 | ・クレーン・デリック(旧クレーン運転士免許、旧デリック運転士免許含む)、揚貨装置いずれかの運転士免許
・玉掛け技能講習の修了 ・床上操作式クレーン運転技能講習の修了 |
17時間 | ・車両系建設機械(基礎工事用)運転技能講習の修了
・建設機械施工管理技士1級・2級の第2種または第6種の合格 |
19時間 | 小型移動式クレーン、クレーン等の特別教育修了後、業務経験が6ヶ月以上ある(特別教育修了証のコピー貼付、事業主経験証明必要、定期点検表添付) |
20時間 | 上記のいずれにも該当しない |
移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育
以下に、移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 15,000円〜20,000円前後 |
日数 | 【学科】 移動式クレーンに関する知識:3時間 原動機及び電気に関する知識:3時間 運転のために必要な力学に関する知識:2時間 関係法令:1時間【実技】 移動式クレーンの運転:3時間 移動式クレーンの運転のための合図:1時間 |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 社内、社外の教習機関(都道府県労働局長登録教習機関など) |
移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育を修了すると、吊り上げ荷重が1t未満の移動式クレーンの操縦が可能になります。
参考:コマツ教習所「講習コース|特別教育|移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育」
まとめ
この記事では、移動式クレーン免許の取得の流れや必要な費用、学科・実技試験の内容とその対策について詳しく解説しました。移動式クレーン免許の取得は、建設現場や物流施設などで安全に作業を行うために必要不可欠です。
移動式クレーン免許の取得は、作業の安全性だけでなく、効率性の向上にも直結します。この記事を参考に対策を講じて、スムーズに免許取得を目指す参考にしてください。免許の取得後は安全運転を心がけて、移動式クレーンの操作に自信を持って業務に取り組んでください。