重機・建機の知識 2025.03.25

ICT建機とは?種類や仕組み、メリットをわかりやすく解説

近年、建設業界ではICT建機の導入が進んでいます。ICT建機は、GNSSやレーザーセンサーなどを活用し、施工の効率化や精度向上を可能にする建設機械です。

これまでの建設現場では、オペレーターが経験を頼りに施工を行うことが一般的でした。しかし、人手不足や技術継承の難しさが課題となる中で、ICT建機の活用が解決策の一つとして注目されています。

本記事では、ICT建機の種類や仕組み、導入するメリットについて、専門知識がない方でも理解しやすいよう解説します。ICT建機の基本から、建設業の効率化や安全性向上など自社の業務改善につなげられる情報まで幅広くまとめました。

ICT建機とは?

ICTと建機の関係

ICT建機とは、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を活用した建設機械のことです。従来の建設機械に全球測位衛星システム(GNSS)やトータルステーションをはじめとする各種センサーを搭載し、より正確で効率的な作業を可能にします。

ICT建機は、国土交通省が推進する「i-Construction(※)」の取り組みの一環として導入が進められており、土木工事やインフラ整備の現場などで活躍しています。ICT建機を使うことで、作業の手間を減らし、工期を短縮できるため、建設業界が抱える人手不足や生産性向上の課題解決にも貢献しています。

※:「ICTの全面的な活用」などの施策を建設現場に導入して、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みのこと。i-Constructionの概要や導入の必要性、具体的な施策について理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。

i-Constructionとは?国交省が推進する最新2.0も解説

ICT建機の種類

ICT建機は、大きく「MG(マシンガイダンス)」と「MC(マシンコントロール)」の2つに分類され、さらに測位方式によって「2D」(角度・勾配センサーやレーザーを使用し、主に平面的な施工に適用)と「3D」(GNSSやトータルステーションを活用し、立体的な施工が可能)に分けられます。

  • 2D MG
  • 2D MC
  • 3D MG
  • 3D MC

それぞれの種類について順番に詳しく解説します。

2D MG(マシンガイダンス)

MGは、建機と目的地(設計データ)の位置関係をモニタ上に表示することで、オペレータを案内(ガイダンス)するシステムです。

2D MGでは、以下のような技術を利用し、オペレーターがブレードやバケットの位置を確認しながら手動で操作します。施工の目安となるガイド情報を提供し、作業精度の向上を支援してくれます。

技術 補足
角度・勾配センサー 作業機の傾きや角度を検知し、オペレーターに最適な位置をガイドする。
レーザー受信機 事前に設定された基準面(レーザー基準)との高さ関係を測定し、掘削や整地の適切な位置を表示する。
モニター表示 運転席のモニターに、現在のバケットやブレードの位置をリアルタイムで表示し、施工の目安を提供する。

2D MGの大きな特徴は、施工精度の向上や作業時間の短縮を実現できる点です。オペレーターは目視や経験のみに頼るのではなく、モニターの指示に従って作業を進められます。その結果、掘削や整地のやり直しが減り、施工の効率が大幅に向上します。

2D MC(マシンコントロール)

MCは、建機の位置情報と現場の設計データを活用し、建機を半自動制御するシステムです。

2D MGに油圧制御システムを組み合わせたものが、2D MCです。オペレーターが手動で細かく操作しなくても、設定された高さや勾配に応じて建機が自動的に制御されます。

特に整地作業で威力を発揮し、ムラのない均一な仕上がりを実現できます。

3D MG(マシンガイダンス)

3D MGは、GNSSやトータルステーションなどの技術(詳細は後述)を活用し、3D設計データをもとに施工するシステムです。リアルタイムで建機の位置情報を取得し、オペレーターがモニター上で設計データと照らし合わせながら作業を進めます。

3D MC(マシンコントロール)

3D MCは、ICT建機の中でも高度な自動制御機能を備えたシステムです。オペレーターの操作をアシストしながら、建機が精度の高い施工をサポートします。

具体的には、3D設計データを活用し、GNSSやトータルステーションを駆使することで、建機が自動的に適切な高さや角度に調整され、施工の手間を大幅に削減できます。また、オペレーターがモニターを確認するだけで進行状況を把握でき、作業の効率が向上します。

以下の記事では、近年ニーズが急速に高まっている建設機械の自動化・遠隔化について、国土交通省の取り組みと併せて解説しています。建設機械の自動化・遠隔化が施工現場にもたらす変革について理解を深めたい場合は、ぜひ併せてご覧ください。

建設機械の自動化・遠隔化とは?国交省の取り組みを解説

ICT建機の仕組み

ICTを利用した建設現場

ICT建機は、様々な測位技術やセンサーを活用することで、施工の精度を大幅に向上させることが可能です。主な技術として、以下のようなものがあります。

  • GNSS
  • トータルステーション
  • IMU(慣性計測装置)
  • レーザーセンサー

それぞれの仕組みや特徴について、詳しく解説していきます。

GNSS

GNSS(Global Navigation Satellite System)は、人工衛星を利用して地上の現在位置を計測するためのシステムです。GPS(アメリカ)、GLONASS(ロシア)、Galileo(EU)、みちびき(日本)など、複数の衛星測位システムを活用しています。

ICT建機においては3D MGや3D MCなどで使用されており、広範囲の施工現場でも正確な位置測定が可能になり、施工精度の向上につながっています。

参考:国土地理院「GNSS測位とは」

トータルステーション

トータルステーションは、建設現場での測量や施工管理に使用される高精度な光波測距・測角機器です。水平角と鉛直角を計測する経緯儀という器械に、測距儀の機能が内蔵されています。これらの技術により、建機の位置や高さをミリ単位で測定し、より精度の高い施工を実現できます。

GNSSが利用しにくい環境(例:都市部や山間部など)では、単独での活用が難しい場合もありますが、補助技術と組み合わせることで対応可能です。そのため、活用ケースが増えており、今後もさらなる技術の進化が期待されています。

参考:国土地理院「トータルステーションとは」

IMU(慣性計測装置)

IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置) は、ICT建機の動きをリアルタイムで高精度に測定するための装置です。加速度センサーとジャイロセンサーを組み合わせ、建機の傾きや移動量を補正し、安定した制御を可能にします。

GNSSやトータルステーションは、外部の基準点から測位するため、トンネルや高架下などでは正確な計測が難しくなります。IMUは、建機内部で直接姿勢を計測できるため、GNSSが使えない環境でも精度の高い施工をサポートします。

例えば、IMUはブルドーザーのブレードの傾きを自動補正したり、パワーショベルのアームの角度を調整するなど、細かい制御を行う場面で活用されます。

レーザーセンサー

レーザーセンサーは、ICT建機のうち2D MGや2D MCで主に使用される技術です。施工面の高さや距離を高精度で測定できます。

レーザーを用いてバケットやブレードと地面・障害物との距離を測定し、施工精度を向上させるとともに、オペレーターの負担を軽減します。主として、GNSSが使えない環境や平坦な地面の整地作業、微細な高さ調整が求められる施工で活用されています。

ICT建機のメリット

ICTを利用した施工管理

ICT建機の導入には、施工精度や作業効率の向上、労働負担の軽減など、多くのメリットがあります。従来の建設作業では熟練オペレーターの経験や感覚に頼る部分が大きかったのに対し、ICT技術を活用することで、より均一で高品質な施工が可能になります。

ここでは、ICT建機の主なメリットについて詳しく解説します。

施工精度の向上

ICT建機のメリットの一つは、施工精度の向上です。従来の建設現場では、オペレーターの経験や感覚に依存した作業が主流でした。しかし、ICT技術を活用することで、施工のばらつきを抑え、高精度な仕上がりを実現できます。

例えば、ICT建機にはGNSSを搭載することで、現在の建機の位置を正確に把握できます。これにより、設計データと照合しながら、誤差を最小限に抑えた施工が可能です。

また、事前に作成された3D設計データを建機に取り込むことで、目標とする形状をリアルタイムで確認しながら作業が進められます。オペレーターはモニターを見ながら施工できるため、視認や感覚に頼る必要がなくなります。

さらに、IMUやレーザーセンサーを搭載したICT建機では、バケットやブレードなどの角度・高さを自動で補正できます。これにより、オペレーターの技量に関わらず、設計通りの施工が実現可能です。

特に大規模工事や高精度が求められる現場では、ICT建機の導入によって品質の均一化が可能になります。

作業効率の向上

ICT建機を導入することで、施工スピードが向上し、作業時間の短縮が可能になります。

従来の施工では、事前に測量を行い、基準となる丁張り(施工の目印)を設置する作業が必要でした。しかし、ICT建機を活用すれば、GNSSやトータルステーションを利用して正確な位置情報を取得できるため、測量や丁張りの手間を省略できます。

また、ICT建機に搭載されたMC機能を利用すれば、バケットやブレードなどの高さ・角度を自動で調整しながら作業を進めることが可能です。オペレーターが細かい調整を行う必要がないため、作業がスムーズに進みます。

特に大規模な工事では作業のスピードが向上し、工期の短縮に大きく貢献するでしょう。

人材不足の解消

建設業界では、熟練オペレーターの高齢化や若手人材の不足が深刻な課題となっています。ICT建機を活用することで、熟練技術者のスキルに頼る必要性が減り、高精度な施工が可能になります。これにより、人材不足の解消に貢献すると考えられています。

前述の通り、従来の建設現場では、熟練オペレーターの経験や勘に依存した施工が主流でした。しかし、ICT建機では3D設計データやGNSSによる位置測定・MC機能などを活用し、経験が浅いオペレーターでも正確な作業が可能になります。

また、ICT建機には自動制御機能が搭載されているため、オペレーターが長時間にわたって細かい操作を続ける必要がありません。測量作業や丁張りの設置も不要になることで、現場作業の負担が軽減され、長く働きやすい環境を整えることが可能です。

今後、建設業界のICT化が進むにつれ、ICT建機を活用した人材不足対策が、企業の持続的な成長に不可欠な要素となるでしょう。

コスト削減

ICT建機の導入には、通常の建設機械より高額な初期投資が必要ですが、施工効率の向上や人的コストの削減につながる可能性があります。主な削減ポイントは以下の3点です。

1. 人件費の削減

従来の施工では、熟練オペレーターの技術に依存していたため、高度なスキルを持つ人材の確保が課題でした。ICT建機を導入することで、未経験者でも精度の高い施工が可能となり、技術者の育成コストや人件費の削減につながります。

2. 資材費の削減

手作業による施工では、測量ミスや目測の誤差が原因で、余分な掘削や整地のやり直しが発生することがありました。ICT建機を使用すれば、GNSSやレーザーセンサーにより高精度な施工が可能になり、無駄な資材使用を防ぐことができます。

3. 燃料費の削減

ICT建機は最適な作業ルートを計算し、不要な動きを最小限に抑えることができます。その結果、施工回数の削減や燃料の節約につながり、ランニングコストを抑えることが可能です。

これらの要素を考慮すると、ICT建機の初期投資は高額ではあるものの、導入後の施工効率向上や人件費削減によって、次第にコストメリットが得られるようになります。特に、施工精度の向上による手戻りの減少や、熟練技術者に頼らない運用が可能になることで、継続的なコスト削減が見込めます。長期的な視点で見れば、企業の生産性向上にも大きく貢献するでしょう。

まとめ

ICT建機は、建設業の生産性向上や人材不足の解消、コスト削減などに大きく貢献する建設機械です。GNSSやトータルステーション、レーザーセンサーなどのICT技術を活用すれば、従来の施工方法に比べて高精度で効率的な作業が可能になり、業界全体の課題解決につながります。

初期投資が必要ではありますが、長期的に見れば業務効率の向上やコスト削減による利益拡大が期待できます。

今後、建設業界のICT化が進むにつれてICT建機はさらなる進化が期待されており、自動施工技術やAIを活用した最適化が進む可能性があります。建設業において競争力を維持するためにも、ICT建機の導入を積極的に検討し、現場の効率化を進めることが望ましいです。

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