i-Constructionとは?国交省が推進する最新2.0も解説
i-Constructionは、国土交通省が推進しているプロジェクトで、建設現場に最新の技術を導入して生産性の向上や経営環境の改善などを図る取り組みです。コンピューターやネットワーク技術などを活用し、効率的な建設業務を実現することが目指されています。
本記事では「i-Constructionという名前は聞いたことがあるけれど、具体的に何をするのかよく分からない」「i-Constructionにより建設現場がどのように変わるのか知りたい」と考える方向けに、i-Constructionの概要や導入の必要性、具体的な施策について解説します。
目次
i-Constructionとは?
i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、「ICT(※1)の全面的な活用」などの施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みのことです。
2016年4月に国土交通省が推進する「生産性革命プロジェクト」の一環として発表され、日本の経済成長を持続させるための取り組みとして位置づけられています。
i-Constructionの主な目的は、建設現場にICTを積極的に導入することで、業務の効率化や経営の改善などを図ることです。
測量や施工、検査をはじめとする様々な工程にコンピューターやネットワーク技術を取り入れることで、生産性を高め、現場の作業効率を大幅に向上させることを目指しています。
※1:PCだけでなくスマートフォンやスマートスピーカーなど、さまざまな形状のコンピュータを使った情報処理や通信技術の総称。
参考:国土交通省「i-Construction」
国土交通省「生産性革命プロジェクト」
i-Constructionの必要性と導入背景
日本の人口は2010年の1億2,806万人をピークに減少し始め、高齢化も急速に進行しています。2030年までの間、生産年齢人口は毎年約1%ずつ減少すると予測されています。しかし、労働力が減少する中でも、生産性を向上させれば経済成長を維持することが可能です。
1956年から1970年の高度経済成長期における実質GDP成長率は年平均で9.6%でしたが、この時期の労働力人口の伸び率は1.4%程度であり、この成長の大部分は生産性の向上によるものだとされています。
近年では生産性が低下しているため、生産性向上が今後の成長のカギを握っています。
こうした状況下で、石井国土交通大臣(当時)は2016年を「生産性革命元年」と位置づけ、国土交通省内に「生産性革命本部」を設置しました。
その取り組みの中核をなす施策として、i-Constructionが推進されており、調査・測量から施工、維持管理までの建設プロセス全体で生産性を抜本的に向上させることが目指されています。
労働力不足は一見すると困難な課題のように思われますが、それをきっかけに革新を促進し、建設業界を進化させる大きな機会でもあると捉えられています。
建設現場で生産性を飛躍的に向上させるためには、まず3つのトップランナー施策(詳細は後述)から始め、それを他の工種にも広げることで、現場全体での継続的な改善を進めていくことが重視されています。こうして、i-Constructionを建設業界に浸透させ、生産性の向上を実現することが目標です。
近年におけるICTやIoT(※2)といった技術の進化は、近い将来に想像を超える革新をもたらすと期待されています。
技術革新によって、リモート操作やオートメーション化が進むことで、体力的な負担が軽減され、女性や高齢者など、従来の建設業界では活躍の機会が少なかった層にも新たなチャンスが広がるでしょう。
※2:日本語で「モノのインターネット」と訳され、あらゆるモノをインターネット(あるいはネットワーク)に接続する技術。
参考:i-Construction 委員会「i-Construction~建設現場の生産性革命~」平成28年4月
i-Constructionの3つのトップランナー施策
i-Constructionを推進するにあたり、国土交通省は「ICTの全面的な活用」「標準化・全体最適の導入」「施工時期の平準化」という3つの施策を最優先項目として掲げています。
これらの施策は、現場でよく使われる土工や場所打ちコンクリート工の生産性が30年にわたってほとんど向上していない現状と、これらの作業に従事する技能労働者が直轄工事全体の約4割を占めるというデータから、改善の余地が大きいと考えられています。
また、各現場では情報化施工やプレキャスト化(※3)の導入実績があることから、これらの取り組みはすぐにでも進められると期待されています。
※3:工場であらかじめ製造した側溝、管、マンホール、くい、橋げたや建物の一部などのコンクリート製品のこと。工事現場に運搬し、建設現場での据付けと組立てを考慮して製作した、構造物や施設などを構築するための資材。
ここからは、国土交通省が定めるi-Constructionの3つのトップランナー施策について順番に解説します。
ICTの全面的な活用
2008年から試行されている情報化施工の結果から、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」によって、大幅な生産性向上が期待されています。
情報化施工は国土交通省発注の土工工事の約13%(2014年度)で導入され、最大で施工効率が約1.5倍に向上することが確認されています。
また、ICTの導入により建機周辺での計測作業が減少し、安全性が向上するだけでなく、精度の高い施工が可能になるため、若手オペレーターでも早期に現場で活躍できる環境が整います。
従来の情報化施工は主に施工段階に限られていましたが、今後は土工に関する調査や測量、設計、施工、検査、維持管理に至るまで、3Dデータを活用したICT技術を全プロセスで導入し、生産性の抜本的な向上が目指されます。
標準化・全体最適の導入
従来、構造物の設計では、技術的・社会的・経済的な観点から複数の工法や工種を比較し、各建設現場に最も適した設計を行う「部分最適」のアプローチが基本とされています。
しかし、建設現場ごとに異なる一品生産が主流であるため、プロジェクト全体における生産プロセスで生じる待機時間などの無駄が改善されにくい傾向があります。
また、構造物ごとに個別設計が必要となり、同様の設計を使い回すことで得られるコスト削減効果が得られにくいです。標準化が進んでいない場合には、維持管理や点検作業が非効率でコストがかさむ場合もあります。
そこでi-Constructionでは、コンクリート工事などの主要な工種に対して「全体最適」の考え方を取り入れ、設計から発注、材料調達、施工、維持管理といった一連のプロセスを最適化し、サプライチェーン全体の効率化と生産性向上を目指しています。
さらに、部材の規格を標準化し、プレキャスト製品や工場製作のユニット鉄筋を活用することで、コスト削減と生産性の向上が期待されます。この取り組みでは、構造、材料、施工計画を一体化し、品質、コスト、時間をバランスよく最適化することが重視されています。
施工時期の平準化
公共工事の実施は、基本的に毎年の予算に基づいて行われます。そのため、予算が成立した後に入札や契約手続きが行われることが多く、4月から6月の第一四半期では工事量が少なくなります。
実際、2014年度では月ごとの工事量の最大値と最小値の差が約1.8倍と、大きな変動がありました。この変動を抑え、限られた人材を効果的に活用するためには、工事の実施時期を均等化し、年間を通じて工事量を安定させることが重要です。
この取り組みは特別な投資が不要で、発注者が業務の進め方を調整するだけで実現できます。施工時期を均等化することで、繁忙期と閑散期のギャップが減り、無駄な待機時間がなくなるため、年間を通じた安定した工事量が確保されます。
これにより経営の安定化や労働者の待遇改善が実現し、機材の稼働率も向上します。
i-Construction 2.0とは?
「i-Construction」を時代に沿う形でバージョンアップさせたものが、2024年4月に発表された「i-Construction2.0」です。
前述のとおり、国土交通省では、2016年度から「i-Construction」を通じて、建設現場の生産性向上を目指し、ICT技術を導入する施策を進めてきました。
現在までに一定の成果を上げていますが、今後の人口減少を見据え、インフラの整備・維持管理を持続的に行うためには、さらなる進化が求められています。そこで、新たに「i-Construction 2.0」が策定されました。
このプロジェクトでは「施工の自動化」「データ連携の自動化」「施工管理の自動化」の3つを柱とし、少人数でも効率的かつ安全に作業ができる環境の整備を目指し、これによって建設現場全体の生産性向上を図っています。
参考:国土交通省「「i-Construction 2.0」を策定しました~建設現場のオートメーション化による生産性向上(省人化)~」
i-Construction 2.0の目標
i-Construction 2.0では、デジタル技術をフル活用し、建設現場のすべての生産工程を自動化することに取り組んでいます。これにより、より少ない人数で安全に作業ができ、快適な環境で働ける高効率な建設現場を実現することを目指しています。
この取り組みを通じて、各作業員の生産能力や付加価値を向上させ、建設業が賃金や休暇などの面でも魅力的な職場環境となることを目指しています。加えて、国民の生活や経済を支えるインフラを将来的にも安定させ維持することも期待されます。
こうしたi-Construction 2.0の成果を評価する際には、建設の生産プロセスが多岐にわたるため、多面的な観点から効果を把握することが求められます。
i-Construction 2.0では、具体的に以下4つの観点から目標が設定されています。
省人化(生産性の向上)
2040年には生産年齢人口が現在の約2割減少する一方で、災害の増加やインフラの老朽化により、社会基盤の整備や維持管理に対するニーズがさらに増えると予測されています。
人口が減少しても、国民生活の基盤となる社会インフラをしっかりと整備・維持し、国土の安全を守り、経済活動を支える施設を持続的に提供するために、2040年までに建設現場の作業効率を高め、省人化を3割達成(2023年比較で生産性を1.5倍に)することが目標です。
従来進めてきた自動施工の取り組みを踏まえると、すでに効率化が進みやすい分野では3割の省人化が見込まれています。また、設計分野ではBIM/CIM(※4)が普及し、自動化が進めばさらなる効率化が期待されます。
ただし、維持工事などは省人化に時間がかかるため、優れた事例を他分野に広めつつ、現場や地域の特性に応じた取り組みを進めていく必要性が指摘されています。
※4:調査・計画・設計段階から3次元モデルを導入し、施工・維持管理の段階での3次元モデルに連携・発展させることで、事業全体にわたって関係者間での情報共有を容易にし、一連の建設生産システムの業務効率化や高度化を目指した取り組みのこと。
安全確保
厚生労働省の「労働災害統計」(2022年)によると、建設機械に関連する死亡事故は全体の約2割を占めています。建設業における死亡災害は、この50年間で大幅に減少してきたものの、依然として毎年約300件近くの死亡事故が発生しています。
建設現場に作業員が存在する限り、完全に事故を防ぐことは難しいと言えます。しかし、建設機械の自動化や遠隔操作技術を導入することで、人的なリスクを極力減らし、事故による被害を大幅に抑えることが可能です。
今後は、こうした技術の普及によって、建設現場での安全性向上を図り、人的被害のリスクを最小限に抑えることを目指します。
働き方改革と多様な人材の活躍
建設現場や屋外での作業、危険を伴う現場作業、厳しい環境下での業務は、若者にとって魅力が薄れつつある分野であると捉えられています。
この状況を打破するため、建設現場の自動化を進めています。具体的には、従来、炎天下で行われていた作業を空調の効いた室内で快適に行えるようにし、働く環境を大幅に改善することを目指しています。
また、設計をはじめとするオフィスワークでは、BIM/CIMを活用し、クラウド(※5)上でデータを共有することで、発注者と受注者が迅速な対応を求められる機会を減らす取り組みが進められています。
これにより、時間や場所に囚われない柔軟な働き方が可能となり、より多様な人材が活躍できる環境を作り出すことが可能です。
さらに、建設生産プロセス全体のデジタル化を進め、施工管理に必要な情報をオンラインで共有し、ペーパーレス化を推進することで、資料作成にかかる時間を削減し、建設業界の長時間労働の改善にも取り組んでいく方針です。
※5:ユーザーがインフラやソフトウェアを持たなくても、インターネットを通じて、サービスを必要な時に必要な分だけ利用する考え方。
給与がよく、休暇が取れ、希望がもてる建設業の実現
建設現場の自動化により、1人で複数の機械を操作できるようになれば、生産性が飛躍的に向上します。これに伴い、賃金の大幅な引き上げが期待される上に、天候の影響を受けにくくなり、計画的に工事を進められるようになります。
その結果、完全週休二日制の導入など、他の業界と比べても魅力的な働き方が実現するでしょう。
加えて、職場環境を向上させたり、様々な人材が活躍できる場を提供したりすることで、多くの若者が建設業に関心を持ち、地域に貢献する喜びや誇りを感じながら仕事に取り組めるような、魅力的な建設業界を築いていくことが期待されます。
i-Construction 2.0の3つのトップランナー施策
i-Construction 2.0では、i-Constructionの施策をより一層進化させ、建設現場での省力化を飛躍的に進めていきます。
具体的な施策として、以下に紹介する3つの要素に重点を置き、建設現場のオートメーション化を加速させることを目指しています。
施工のオートメーション化
現在の建設現場では、熟練した技術者の指導のもとで施工計画が立てられ、オペレーターが指示に従い建設機械を操作していくのが基本です。
しかし、今後は各種センサーで現場のデータを収集し、AI(※6)を活用した自動生成された施工計画に基づいて、オペレーターが複数の機械を同時に管理・操作する「施工のオートメーション化」が図られます。
AIを用いた施工計画の自動生成や、センサーによる現場データのリアルタイム収集が進み、作業の効率化と精度の向上が期待されます。
この取り組みでは、安全基準の策定や、様々なメーカーの機器を統一して制御できる標準化された制御信号の導入、無人の作業現場でも安全で効率的に作業を行うための遠隔操作型建設機械の普及などが推進されます。
また、異なるメーカーの機械間でもリアルタイムで施工データを共有できるシステムを構築して、機器の最適な配置と効率的な作業を実現し、デジタル化された現場の「見える化」を進展させます。海上工事でも作業船の自動操作を導入し、施工の効率を向上させます。
以上の取り組みにより、省力化が進むだけでなく、人口減少が進む中でも必要な施工能力を確保することが目指されます。
※6:人間の言葉の理解や認識、推論などの知的行動をコンピュータに行わせる技術。
データ連携のオートメーション化 (デジタル化・ペーパーレス化)
建設プロセス全体をデジタル化し、3Dデータで管理するBIM/CIMの導入により、プロセス全体のデータ連携の自動化を推進します。
この取り組みによって、手入力によるデータの重複作業をなくし、不要な調査や問い合わせ、データ復元作業を減らすことが可能です。さらに、資料の検索にかかる時間や手間も大幅に削減されます。
現状では、大量のデータが生成されながらも十分に活用されていないため、必要な情報を整理して関係者間でスムーズに共有できる情報基盤の整備が必要です。
この基盤整備により、設計データを施工に直接活用したり、デジタルツイン(※7)を使って施工計画を最適化できるようになり、現場の効率化が進みます。
また、BIツール(※8)の導入によってデータの可視化を図り、書類の電子化やペーパーレス化を進め、現場業務のデジタル化とバックオフィスの効率化を同時に達成することを目指します。
※7:リアル(物理)空間にある情報をIoTなどで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術。
※8:企業に蓄積されている膨大なデータを集約し、経営や業務に活用できるように分析・共有するためのツール。
施工管理のオートメーション化 (リモート化・オフサイト化)
建設現場の自動化を進めるためには、部材の製造、運搬、設置、監督や検査など、すべての工程に新技術を積極的に導入し、施工管理の自動化を推進することが重要です。
そのために、従来「立会い」や「段階確認」で採用してきた遠隔操作技術を検査にも適用するほか、コンクリート構造物の配筋チェックにはデジタルカメラを使った画像解析技術を導入します。
また、小型・中型構造物に利用されていたプレキャスト製品を大型構造物にも展開し、VFM(Value for Money)の評価手法を確立しつつ、リモートやオフサイトでの作業を拡大していきます。
加えて、通信インフラの強化も必須であり、全国的に高速で大容量データの利用がスムーズに行える環境を整備します。施工管理の自動化には、衛星測位技術を用いた国家座標データの活用も推進される予定です。
参考:国土交通省「i-Construction 2.0~建設現場のオートメーション化~」 令和6年4月
i-Constructionとの違い
下表に、両者に見られる主な違いをまとめました。
名称 | i-Construction | i-Construction 2.0 |
---|---|---|
開始時期 | 2016年4月 | 2024年4月 |
主な焦点 | 生産性の向上、ICT活用、標準化 | 自動化、デジタル化、働き方改革、安全性向上 |
技術の導入 | ICT技術、3Dデータ、ドローン | AI、ロボティクス、オートメーション、クラウド技術 |
働き方 | 主に施工の効率化 | 働き方改革、給与と休暇の改善、安全性向上 |
i-Construction2.0は、i-Constructionの技術的進化に加え、労働環境の改善にも重点を置いているため、より包括的な取り組みと言えるでしょう。
まとめ
i-Constructionとは、建設現場にICT技術を導入して、生産性の向上や経営環境の改善を目指すプロジェクトです。ドローンやICT対応の建設機械を取り入れることで、業務の効率化や作業のスピードアップが期待されます。
また、2024年4月に国土交通省が発表したi-Construction2.0は、これまでの取り組みをさらに強化し、建設業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための施策です。
建設機械の自動化やリモート操作、BIM/CIMによる3Dデータの活用、リモートでの監督検査など、最新技術を活用し、建設現場のデジタル化を加速させます。
建設会社にとっては、これらの技術導入に向けた資金調達や、ICT施工に対応できる人材の確保が急務となっています。国土交通省が提供する資料も参考に、事業改革を進めていきましょう。