建設ICTとは?導入メリットや活用事例を解説
近年、コンピュータや通信技術の急速な発展により、様々な分野でデジタル化が進んでいます。建設業界も例外ではなく、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を活用した生産システムの導入が推進され、業務の効率化や技術革新が加速しています。この取り組みを通じて、建設業界は従来の労働集約型から、より高度で生産性の高い産業へと進化することが期待されています。
国土交通省は、生産性向上を目的とした「i-Construction」施策を推進しており、ICTの導入支援や補助金制度を整備しています。これにより、施工の各工程において情報を効率的に活用し、作業の合理化を目指しています。
具体的には、「建設ICT」をモデル事業として現場で実践し、建設生産システムの効率化・高度化による生産性向上を目指しています。その一環として、ICTを活用した施工管理や遠隔監視システムの導入が進められており、現場の業務効率が向上しています。また、技術者のスキル向上を目的とした研修や教育プログラムも充実させ、ICTの活用方法やデータ解析能力の向上を支援し、現場技術力の強化を図っています。
本記事では、建設ICTの基本概念から導入メリット、活用事例、具体的な導入方法まで詳しく解説します。建設業界の現場改善を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
建設ICTとは?
まずは、建設ICTの定義やそこで活用されている技術など基礎知識をお伝えします。
建設ICTの定義
建設ICTとは、調査・設計・施工・維持管理・修繕といった一連の建設生産システムにおいて、効率化・高度化による生産性向上に寄与する情報通信技術のことです。
従来の建設業界では、設計と施工、施工と維持管理などの各フェーズが独立して進められることが多く、情報共有の遅れや業務の非効率が課題となっていました。しかし、建設ICTの導入により、これらのプロセスがデジタル化し、シームレスに連携できるようになります。
建設ICTは、国土交通省が推進する「i-Construction(※)」施策の中心的な要素であり、建設業界全体のDX化を加速する役割を担っています。例えば、BIM/CIM(3Dデータ活用)では、建設プロジェクトの設計段階から施工・維持管理までの情報を一元管理できるため、設計変更による手戻りを削減し、コストの最適化を図ることができます。
また、IoT(モノのインターネット)を活用することで、建設機械の稼働状況をリアルタイムで監視し、燃料の無駄遣いや機器の故障リスクを低減できます。さらに、クラウド技術により、設計データや施工進捗の情報共有がスムーズになり、関係者間の意思疎通が迅速化され、業務の効率化が進みます。
現在、建設ICTの導入は大手ゼネコンを中心に進められており、中小企業でも一部の企業が採用を検討しています。その背景として、国土交通省による「i-Construction」の推進があり、公共工事の入札要件にICT活用が求められるケースが増えていることも背景として挙げられます。
また、人手不足の深刻化や建設コストの高騰といった業界課題の解決策として、ICT導入の必要性が高まっており、国土交通省の推進も相まって、今後さらに導入が進むと予測されています。
※:ICTの活用を全面的に推進し、建設生産システム全体の生産性向上を目指す取り組み。建設現場の業務効率を高め、より魅力的な職場環境を実現することが期待されている。i-Constructionの導入が求められる背景や具体的な施策、メリットについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
i-Constructionとは?国交省が推進する最新2.0も解説
建設ICTの主な技術
建設ICTは、建設生産システム全体に用いられる情報通信技術です。下表に、建設ICTで活用される代表的な技術と適用範囲を示しました。
技術 | 概要 | 主な適用範囲 |
---|---|---|
BIM | 構造物を3次元形状でモデリングし、部材情報や施工手順情報などを属性として持たせることで、構造物の干渉チェック、数量の自動算出、意匠の確認、構造シミュレーションを実現する。 | 調査・設計・施工・維持管理・修繕 |
CIM | BIMの概念を土木分野に適用した概念。計画から維持管理までの建設事業に係わる情報を構造物などのモデルの属性として共有し、事業全体の効率化実現を目指す。 | 調査・設計・施工・維持管理・修繕 |
GIS(地理情報システム) | 膨大なデータを地図上に可視化することで、土地利用の評価、インフラの配置計画、施工管理、周辺環境の影響評価などに活用する。 | 設計・施工 |
IoT(モノのインターネット) | 建設機械やインフラの状態をリアルタイムで監視し、異常を検知する。 | 施工・維持管理・修繕 |
AI・ビッグデータ | IoTなどで施工現場から収集されるビッグデータをAI(人工知能)を用いて解析することで、施工計画の最適化や異常検知の自動化に活用する。 | 施工・維持管理・修繕 |
クラウド | 設計・施工データをリアルタイムで共有し、チーム間の連携を強化する。 | 設計・施工 |
参考:国土交通省 情報化施工推進会議 「情報化施工推進戦略〜「使う」から「活かす」へ、新たな建設生産の段階へ挑む!~」
国土交通省「AIを活用した建設生産システムの高度化に関する研究」
建設ICTの導入メリット
建設ICTの導入により、建設生産システムのあらゆるフェーズで多くのメリットが得られます。以下では、代表的な導入メリットについて詳しく解説します。
設計・施工・維持管理の一元化
従来の建設プロジェクトでは、設計・施工・維持管理といった各工程が個別に進められ、設計段階の情報が施工や維持管理に十分に活用されないという課題がありました。しかし、BIM/CIMを導入することで、設計・施工・維持管理の各工程が一元化され、情報共有がスムーズになります。
例えば、3Dモデルを活用して施工計画を事前にシミュレーションすれば、施工時の課題を事前に特定し、工程の最適化が可能になります。これにより、施工中の手戻りが減少し、工期の短縮やコスト削減が可能です。特に、大規模プロジェクトではこの効果が顕著に表れることが多いです。
また、設計段階においても、BIM/CIMを活用することで、設計ミスを早期に発見し、事前に修正できるため、全体の品質向上が図れます。さらに、維持管理の段階でも、センサーデータや過去の施工データを活用することで、適切な補修・メンテナンス計画を策定でき、結果として長期的なコスト削減と安全性向上につながります。
コスト削減
建設業界では、ICTを活用することで無駄なコストを削減できる可能性が高いと考えられています。
例えば、3Dシミュレーションを活用した施工計画の最適化により、資材の過不足を防ぎ、発注コストを抑えることが可能です。また、IoT技術の導入によって、建設機械の稼働データをリアルタイムで取得して効率的に運用できるため、燃料費やメンテナンスコストの削減が期待できます。
さらに、クラウド技術を活用することで、施工現場とオフィス間の情報共有が円滑になり、管理コストが削減された例もあります。これらの技術を活用することで、業務の効率化とコスト削減を同時に実現し、より持続可能な建設プロジェクトの運営が可能です。
生産性向上
建設業界におけるICTの導入は、作業効率の向上や生産性の改善に貢献すると考えられています。
例えば、クラウド技術を活用することで、設計・施工データを関係者全員がリアルタイムで共有できるため、作業の遅れやミスを未然に防ぐことが可能です。これにより、意思決定のスピードが向上し、現場の作業効率が大幅に向上します。
さらに、ICT建機(※)を活用することで施工の自動化が進み、作業時間の短縮が可能です。例えば、GNSS(全地球測位システム)を活用したマシンコントロール技術により、測量作業の効率化と施工精度の向上が可能になります。これにより、人手不足の解消にもつながり、より安全で精度の高い施工が実現します。
※:ICTを活用した建設機械のこと。従来の建設機械にGNSSやトータルステーションをはじめとする各種センサーを搭載し、より正確で効率的な作業を可能とする。ICT建機の詳細は、以下の記事をご覧ください。
ICT施工との違い
建設業界におけるデジタル技術の活用が進む中で、「建設ICT」のほかに「ICT施工」という言葉も注目されています。どちらも建設業界におけるICTの活用に関する言葉ですが、それぞれの意味や適用範囲には違いがあります。
本章では、両者の違いについて解説します。
ICT施工は建設ICTの一部
ICT施工は、「建設ICTの中でも、特に施工プロセスに特化した情報通信技術」であるという関係性にあります。
ICT施工は、建設現場においてICTを活用し、施工の効率化や精度向上を図る手法です。取り組みの具体例として、ドローンや3Dスキャナーを用いた測量、BIM/CIMによる設計、ICT建機の自動制御施工、リアルタイムの施工管理などが挙げられます。
これに対して、建設ICTは、施工のみならず調査・設計・維持管理・修繕のプロセスも含む、建設業界全体で用いられる情報通信技術を指します。
ICT施工との比較
以下に、建設ICTとICT施工の主な違いを比較できる表を示しました。
比較項目 | 建設ICT(業界全体) | ICT施工(施工現場に特化) |
---|---|---|
適用範囲 | 調査〜修繕までの全プロセス | 施工プロセス |
主な技術 | BIM/CIM、IoT、AI | ICT建機、ドローン測量 |
主な導入メリット | 業務の一元化、DX推進 | 施工精度向上、自動化 |
以下の記事では、ICT施工について詳しく解説しています。ICT施工が注目されている背景や導入を成功させるポイントも取り上げていますので、建設業界の現場改善を検討している場合はぜひご覧ください。
ICT施工とは?流れや導入のポイント、問題点をわかりやすく解説
建設ICTの活用事例
本章では、実際に建設ICTを活用している企業の事例として5社のケースを紹介します。
鹿島建設:作業間連絡調整会議の電子化
従来の作業間連絡調整会議では、ホワイトボードやパネルに手書きで作業内容や翌日の予定を記入し、それをもとに打ち合わせを行う方式が一般的でした。
こうした中で鹿島建設では、KMS(Kajima Meeting System:作業間連絡調整会議システム)を導入し、作業調整の電子化を推進した結果、会議の効率化が実現しました。
作業内容はパソコンや携帯端末からいつでも入力・閲覧が可能となり、事前の作業調整がスムーズに行えるようになりました。その結果、会議時間の短縮や業務効率の向上、労働時間の削減が実現しています。
また、データの蓄積により作業実績の分析や安全指示の共有が容易になり、より的確な指示が可能になりました。これにより、現場の負担軽減やストレス低減にも貢献しています。
参考:建設業労働災害防止協会「[ICT活用事例]作業間連絡調整会議の電子化【KMS(Kajima Meeting System】」
戸田建設:作業者安全モニタリングシステムの導入
戸田建設では、作業者の安全を確保するためのモニタリングシステムを導入しました。本システムでは、専用デバイスをヘルメットに装着し、作業員の情報を登録するだけで、安全に関する様々なデータを可視化できます。
主な機能は以下の通りです。
- 暑熱環境の悪化を検知し、熱中症リスクを低減(優先順位をつけて休憩を促す)
- 転倒や落下をセンサーで検知し、重大事故の早期発見を支援
- GPS機能により、作業員の大まかな位置を把握可能
- 計測データを熱ストレスレベルとして指標化し、安全対策の判断材料として活用
オプション機能として、ヒヤリハットの自動検知機能を搭載しています。また、体動データをもとに、つまずきや衝撃を検知し、位置情報や時間とともにクラウドに記録できます。ビーコンの活用により、作業者や資材の正確な位置把握も可能としています。
ヒヤリハット検知の仕組みは、以下の通りです。
- 自己申告機能:作業員がデバイスのボタンを2回押すと、位置情報と時刻を記録する
- つまずき検知:転倒寸前の動きをセンサーが感知し、自動的に記録する
- 衝撃検知:頭部への衝撃をセンサーが検知し、クラウド上に記録する
これらの自動検知機能は、現場の状況に応じて検知レベルを調整できます。
参考:建設業労働災害防止協会「[ICT活用事例]作業者安全モニタリングシステム」
竹中工務店:安全書類作成システムの導入
竹中工務店は、安全点検業務をデジタル化するため、タブレットを活用した書類作成システム「WIZDOM」を導入しました。これにより、作業現場での安全点検を効率的に実施し、データの管理・共有をスムーズに行えるようになっています。
主な活用方法は、以下の通りです。
- 安全点検チェックシートをタブレットを用いて記入する
- 点検結果を関係者に対して是正依頼する
- 是正写真を貼付けて是正報告書を作成し、関係者に電子回付する
安全点検書類に指摘写真を簡易に貼付けできるため、指摘事項がわかりやすくなりました。また、是正依頼を関係者に一斉送信できるため、早期改善が期待できます。
参考:建設業労働災害防止協会「[ICT活用事例]安全書類作成システム[WIZDOM]」
大成建設:クレーン及びつり荷接触衝突防止アプリの導入
大成建設は、クレーン作業中の接触事故や吊荷による作業員の危険を未然に防ぐために専用アプリを活用しています。
本アプリは、クレーンのブーム先端部や作業員に装着したセンサー、GPS、映像情報を活用し、危険が迫った際にアラートを発する仕組みです。クレーンオペレーターには運転席のモニターと音声で警告し、作業員にはスマートウォッチなどを通じて通知します。
基本的な活用方法は、以下の通りです。
- クレーンのブーム先端と作業員にGPSやスマートデバイスを装着
- 危険範囲を設定(例:一次警戒20m、二次警戒10m)
- クレーン同士が接近した際、オペレーターのモニターにアラート表示
- 吊荷下に作業員が接近した場合、オペレーターのモニターおよび作業員のスマートウォッチで警報を発信
以下に、本アプリの主な特徴と効果をまとめました。
- クレーンオペレーターが視界の届かない場所でも作業員の存在を把握でき、安全性を向上
- 作業員が吊荷に近づきすぎた場合、振動通知により即座に回避行動を取れる
- 複数のクレーンが稼働する現場で、接触事故を未然に防止
- 玉掛け作業時には、作業員全員に警報が鳴るため注意喚起が可能
参考:建設業労働災害防止協会「[ICT活用事例]クレーン及びつり荷接触衝突防止アプリ「T-iDigital Field」」
西松建設:安全看板アプリケーションを用いた建設現場の安全性向上への取組み
西松建設は、建設現場の安全性向上を目的とした「安全看板アプリケーション」を開発・導入しました。本アプリを活用することで、現場技術者が巡視中に必要な安全看板を選択・作成し、事務所に戻ることなく、携帯端末から直接プリンターへの印刷予約が可能です。
本アプリは建設現場での巡視時に使用され、以下のように活用されます。
活用例 | 詳細 |
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安全看板の作成・設置の迅速化 | 例として、物流倉庫の工事現場で、立入禁止区域に適切な安全看板が未設置だった際、その場でアプリを使い看板を作成し、即座に設置できます。 |
作業指示の円滑化 | アプリから指示書を作成し、メールやチャットで事務所の職員へ即時送信できます。現場にいながら看板の準備作業が可能となり、作業効率化が実現しました。 |
従来の方法では、現場技術者は巡視中に必要な安全看板の種類や設置場所を記録し、事務所へ戻ってからパソコンで作成する必要がありました。この手順には、失念のリスクが伴い、業務効率も悪化していました。
本アプリの導入により、携帯端末での印刷予約が可能となり、指示書作成の作業時間を約50%削減しました。また、安全看板の設置がより迅速に行えることで、現場の安全性向上にも貢献しています。
参考:建設業労働災害防止協会「[ICT活用事例]安全看板アプリケーション(ぱっと看板ナビ)を用いた建設現場の安全性向上への取組み」
まとめ
建設ICTは、調査・設計・施工・維持管理・修繕のすべてのプロセスをデジタル化し、業務を効率化する情報通信技術の総称です。建設ICTを活用することで、測量・設計・施工・維持管理といった各工程の効率化が可能になり、コスト削減や安全性の向上が期待できます。
建設ICTは「i-Construction」の一環としても導入が進んでおり、今後さらに普及が加速することが予想されます。特に、AIやIoT、BIM/CIMの発展により、建設現場の自動化やデータ管理の高度化が進むでしょう。こうした技術の進化を生かし、建設業界全体の効率化を図ることが重要です。
建設ICTの導入を検討している企業では、まず自社の課題を洗い出し、導入の目的を明確にすることが成功のカギとなります。今後の業界動向を注視しながら、建設ICTの活用を適切に進めていきましょう。