不整地運搬車とは?種類や用途、運転に必要な資格を解説
建設現場では、通常の運搬車では対応できない凸凹やぬかるみなど、足場の悪い場所でも荷物を運ぶ必要があります。こうした場所で活用されているのが、不整地運搬車です。
不整地運搬車とは、舗装されていない悪路でも安定して走行し、土砂や資材を安全かつ効率的に運ぶための特殊な運搬車のことです。キャタピラー(クローラー)や特殊タイヤを装備しているため、柔らかい地盤や斜面でも安定して走行できます。
不整地運搬車の導入により、悪条件下での作業効率が大幅に向上します。本記事では、不整地運搬車の種類や用途、運転に必要な資格について、建設業界を中心に林業や災害復旧の現場など不整地での作業に関わる事業者の方向けに、わかりやすくまとめました。
目次
不整地運搬車とは?
不整地運搬車とは、ぬかるみや砂利道、傾斜のある地形など、舗装されていない悪路でも資材や土砂を安全かつ効率よく運べるよう設計された重機のことです。一般的なトラックでは進入が難しい過酷な環境でも使用できるよう、クローラーや特殊なタイヤが装備されており、優れた走行性能を発揮します。
不整地運搬車の中にはダンプ機能(荷台を傾けることで積載物を自動で排出)を備えた車種もあり、作業時間の大幅な短縮が期待できます。ダンプ機能を備えた不整地運搬車は、運搬と排出を一台でこなせるため、作業員の数が限られる現場や、短時間で何度も資材を運ばなければならない場面で特に重宝されます。
不整地運搬車の車両の大きさ・機能はさまざまです。主流とされる小型(1t〜3tクラス)のものから大型(10tクラス)のものまで幅広いモデルが用意されており、使用する現場や用途に応じて最適な車種を選ぶことが重要です。用途としては建設現場はもちろん、林業や災害復旧といった足場が不安定な現場でも活用されています。例えば、山間部で伐採した丸太の運搬や、豪雨で崩れた土砂の撤去など、重機やトラックが入りづらい場所での資材運搬において、不整地運搬車は不可欠な存在です。
最近では、GPSやセンサーなどを搭載したICT対応の高性能モデルも登場しています。これらの機能により、車両の位置や作業の進捗状況をリアルタイムで把握できるため、管理者は現場全体を的確に把握できます。作業の効率化や進捗の見える化、安全性の向上などにもつながることが期待されています。
以下の記事では、ダンプ機能を備えた車両の種類について詳しく解説します。自社への導入に適した車両選びに役立ちますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。
参考:一般社団法人 日本建設機械施工協会「不整地運搬車の歴史」
不整地運搬車の種類と特徴
不整地運搬車にはさまざまな種類があり、用途や現場環境に応じて適したタイプを選ぶ必要があります。以下では、走行方式や荷台の構造、代表的な車種などの観点から不整地運搬車の種類と特徴を解説します。
クローラー式不整地運搬車
最も一般的なタイプの不整地運搬車で、接地面積が広いため軟弱地盤でも安定して走行できます。山間部や傾斜地、ぬかるみなどの悪路でも優れた走破性を発揮し、悪天候時の作業にも対応できます。耐久性が高く、屋外の長期工事にも適しています。
ホイール式不整地運搬車
タイヤ(ホイール)で走行するタイプの不整地運搬車で、比較的整備された現場や舗装路などでの使用に向いています。
クローラー式よりも走行速度が速く、保守管理がしやすい点が魅力です。ただし、ぬかるみや急な斜面などでは走行性能が劣るため、使用環境には注意が必要です。
荷台構造による分類
不整地運搬車は、荷台の構造でも種類分けできます。運搬する資材の種類や排出方法に応じて、以下のような構造に分類されます。
荷台構造 | 詳細 |
---|---|
ベッセル型 | 荷台が深く、土砂や砕石などをこぼさずに運搬できるタイプです。排出もスムーズで、基礎工事などに適しています。 |
三方開型 | 荷台の左右および後方が開閉可能で、手積み・手降ろし作業を行う場面や、現場ごとに積み方の工夫が求められるケースで活用されています。 |
全旋回型 | 荷台部分が360度回転する機能を持つタイプです。排出方向を自由に選べるため、狭小地や一方通行の現場などでも効率的な作業が可能です。 |
代表車種の一例
以下に、現在多くの現場で活用されている代表的な不整地運搬車の機種の一例を紹介します。
機種 | 詳細 |
---|---|
C30R-3 (ヤンマー) |
最大積載量2.5t(※)の小型モデルでクローラータイプ。狭小地や住宅地などスペースに制約のある場所での作業に適しており、機動性とパワーを両立したバランスのよいモデル。 |
IC70R (加藤製作所) |
最大積載量7tの中型モデル。全旋回機能を備えており、搬入経路が限定される現場や、旋回スペースが狭い作業環境に最適。 |
EG110R (日立建機) |
最大積載量11tの大型機で、重負荷の現場や大規模な造成工事での使用を想定した高耐久モデル。油圧制御による操作性も高く、安全性にも配慮されている。 |
※最大積載量とは、車両が一度に積載できる荷物の重量の上限を指します。一般的には運転者や燃料などを除いた“荷台に積める物の重さ”を指します。正確な定義は道路交通法および車両の仕様によって異なるため、詳細はメーカー仕様書などをご確認ください。
最大積載量とは?計算方法・車両総重量との違いを解説
機種ごとの特徴を把握しておき、現場の条件に応じて最適な構造・仕様の不整地運搬車を選ぶことが大切です。
参考:ヤンマーホールディングス「C30R-3 – 建設機械」
加藤製作所「IC70R – クローラキャリア」
日立建機日本「EG110R|全旋回式ゴムクローラキャリア」
不整地運搬車の主な用途
不整地運搬車は、高い走破性と積載能力から、建設業界のほかにもさまざまな業界や現場で活用されています。用途は多岐にわたり、単なる土砂の運搬だけでなく、機材や建設資材の搬送、災害対応などでも欠かせない存在です。
本章では、不整地運搬車の主な用途について詳しく解説します。
建設・土木工事現場
不整地運搬車は、掘削土や砕石の運搬、造成や整地作業の補助などに活用されています。地盤が軟弱な場所や傾斜地でも安定して走行でき、施工の初期段階から終盤まで幅広く使われます。
林業・山間部での作業
山林開発や間伐作業では、伐採した丸太や枝葉の搬出にも不整地運搬車が活用されています。道路が整備されていない山間部や狭く傾斜のある林道でも、クローラー式の不整地運搬車であれば安定した走行が可能です。
災害復旧・インフラ整備
地震や豪雨、土砂崩れといった自然災害後の復旧作業でも、不整地運搬車の活躍の場が広がっています。瓦礫や土砂の撤去、復旧用資材の運搬など、多岐にわたる作業に対応できる柔軟性が求められます。
また、インフラ整備の一環として行われる河川改修工事や道路の補修工事などでも、足場の悪い場所に重機や資材を運搬する手段として、不整地運搬車が重宝されます。
都市部の狭小地・仮設現場
不整地運搬車は、都市部の限られたスペースでの作業でも使用されます。住宅街や再開発エリアでは大型トラックが進入できないような場所も多く、小型の不整地運搬車が活用されています。
このように、不整地運搬車は「足場が悪い」「搬入経路が限られる」「資材が多い」といった条件下において性能を最大限に発揮する重機です。
不整地運搬車の運転に必要な資格
不整地運搬車は重機の一種で、運転するためには専門の資格が必要です。この資格は労働安全衛生法に基づくもので、運転する車両の最大積載量によって種類や取得方法が変わります。
安全に現場作業を行うためにも、運転する車両に合った資格を正しく取得し、ルールに従って運用しなければなりません。
必要な資格の種類
運転する不整地運搬車の最大積載量によって、必要な資格が以下のとおり異なります。この区分は労働安全衛生規則に基づいており、1t以上の車両では事故リスクが高まるため、一般に「技能講習」の修了が必要とされています。
最大積載量 | 必要な資格 |
---|---|
1t未満 | 不整地運搬車運転特別教育 |
1t以上 | 不整地運搬車運転技能講習 |
1t未満の車両であれば比較的短時間で取得できる「特別教育」の修了で対応可能ですが、1t以上の大型・中型車両を扱うためには、より実技重視の「技能講習」の修了が必要です。
特別教育と技能講習の違い
下表に「不整地運搬車運転特別教育」と「不整地運搬車運転技能講習」に見られる主な違いをまとめました。
種類 | 特別教育 | 技能講習 |
---|---|---|
費用 | 16,000円前後 | 40,000円~110,000円前後 |
日数 | 12時間(2日) | 11時間~35時間(2日〜5日) |
講習内容 | 学科:6時間、実技:6時間 | 学科:11時間、実技:24時間 |
申込先 | 社内、社外の教習機関(都道府県労働局長登録教習機関など) | 都道府県労働局長登録教習機関 |
以下の記事では、不整地運搬車運転技能講習について詳しく解説しています。不整地運搬車の導入を検討している際には、資格の取得も踏まえて、ぜひ併せてご覧ください。
不整地運搬車運転技能講習とは?料金や講習内容、免除学科・実技を解説
不整地運搬車とキャリアダンプの違い
不整地運搬車とキャリアダンプを混同している方が多いですが、厳密には定義が異なります。キャリアダンプは、不整地運搬車の中でもダンプ機能を備えたものを指す通称です。また、同様の車両が「クローラキャリア」や「ダンプキャリア」といった名称で呼ばれることもあり、メーカーや現場によって呼び方が異なる場合があります。導入時には、呼称にとらわれず構造や機能を確認することが重要です。
比較表で見る違い
以下の比較表で、不整地運搬車とキャリアダンプの違いを把握しておきましょう。
項目 | 不整地運搬車 | キャリアダンプ |
---|---|---|
定義 | 不整地で使われる運搬車両の総称 | ダンプ機能付きの不整地運搬車 |
呼び方 | 技術文書や法令上の正式名称 | メーカーや現場での通称・商品名 |
ダンプ機能 | ダンプ機能の有無は車種による | 基本的にダンプ機能あり |
用途 | 資材・工具・土砂など多用途 | 土砂や砕石の排出作業が中心 |
現場での使い分け
建設現場でよく使われる「キャリアダンプ」の名称は、メーカーのカタログによっては「不整地運搬車」の分類で紹介されています。これは法律や建設業界の基準で正式に決まっている分類名が不整地運搬車であるためです。
しかし、実際の現場では、不整地運搬車よりもキャリアダンプと呼ぶ方が一般的です。現場ではキャリアダンプの通称で広まっており、作業者同士のコミュニケーションが円滑になり、作業が進めやすくなるためです。
ただし、呼び方が異なっていても、労働安全衛生法などの法令では車両の構造や最大積載量に基づいて資格の区分が決まっているため、用途や必要な資格が変わることはありません。導入する車両を選ぶ際には、名称に惑わされず、実際の構造や性能を入念に確認することが大切です。
以下の記事では、キャリアダンプについて詳しく解説しています。不整地運搬車との違いや関係性について理解を深められる内容となっておりますので、併せてご覧ください。
キャリアダンプとは?種類・用途・運転に必要な資格を解説
不整地運搬車を導入する際のポイント
不整地運搬車を導入する際は、車両の性能や価格に加えて、運用環境や維持管理の観点からも検討が必要です。本章では、特に重要な次の2つのポイントをご紹介します。
- 使用目的・現場環境に合った機種を選定する
- レンタル利用も検討する
それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
使用目的・現場環境に合った機種を選定する
不整地運搬車を効果的に導入するには、現場の状況や用途に合った機種選びが欠かせません。現場に適さない機種を導入してしまうと、最大限の性能が発揮されず、作業効率や安全性の向上につながりません。
例えば、地面がぬかるんで柔らかい場所では、クローラー式の機種を選ぶのが基本です。また、河川敷や仮設道路のように、狭い範囲で何度も方向を変える必要がある現場では、荷台が360度回転できる全旋回型の機種が便利でしょう。見出し直下の写真がその一例です。
また、資材の種類や運搬距離に合わせて、荷台の形状や大きさも考えて選ぶことが大切です。
レンタル利用も検討する
初期費用を抑えたい場合や、不整地運搬車を一時的に利用するケースが多い場合は、重機のレンタルサービスを活用するのも一つの選択肢です。レンタルであれば、初期投資を大幅に抑えられるほか、車両の維持管理や整備の手間も軽減されるため、短期の現場や予算の限られた事業者にとって経済的かつ柔軟な手段となります。
大手のレンタル会社であれば、小型から大型まで幅広いサイズの不整地運搬車を取り揃えています。メンテナンス済みの車両をすぐに使える状態で提供してくれるため、初めて導入する場合でも安心です。
また、レンタル利用であれば、必要に応じて車両の種類やサイズを自由に入れ替えられるため、現場の規模や作業内容が変わっても柔軟に対応できます。
まとめ
建設現場での安全かつ効率的な作業を目指すなら、不整地運搬車の導入を検討しましょう。
不整地運搬車は、ぬかるみや斜面など、通常のトラックが苦手な場所でも安定した走行と運搬が可能です。そのため、現場の作業効率向上だけでなく、作業員の安全確保にも役立ちます。
不整地運搬車を運転するには、車両のタイプに応じて特別教育や技能講習などの資格が必要です。現場でスムーズに導入するためにも、運転資格や運用方法について十分に準備しておきましょう。
不整地運搬車の導入に際しては、現場条件・作業内容・運用期間などを総合的に考慮し、必要に応じてレンタルや保守契約の活用も視野に入れると良いでしょう。
本記事を参考に、作業現場に適した不整地運搬車を選定し、安全で生産性の高い環境づくりにお役立てください。
なお、ARAVは、2025年6月18日(水)〜21日(土)に幕張メッセで開催される「第7回 国際 建設・測量展(CSPI-EXPO2025)」に出展いたします。
会場では、自動(無人)油圧ショベル RX「ヨイショ投入くん」の実機を披露予定です。「ヨイショ投入くん」は、建設現場の掘削・投入工程を自動化し、生産性と安全性の向上を実現するシステムで、電子制御式油圧ショベルに後付けするだけで無人稼働が可能になります。ARAVブース(屋内:小間番号07-49)にぜひお立ち寄りください。