免許・資格 2024.12.17

玉掛け技能講習とは?内容や費用、合格率、特別教育との違いを解説

建設現場や倉庫などでクレーンを使用する際に、荷物をフックに掛けたり外したりする作業のことを玉掛けと言います。玉掛け作業を正しく行わないと、吊り上げた荷物が落下し、作業者や周囲の人々が怪我をするなど、重大な事故を引き起こすリスクが高まります。

クレーン作業において、正確で安全な玉掛けを行うことは非常に重要であるため、労働安全衛生法において吊り上げる荷物の重量に応じた資格が定められています。具体的には、吊り上げ荷重が1t未満の場合は「玉掛け特別教育」を、1t以上の場合は「玉掛け技能講習」を修了していなければ、玉掛け作業に従事できません。

玉掛け技能講習は、クレーンや移動式クレーンなどを使用した重量物の吊り上げ作業を安全に行うために、必要な知識と技能を習得するための資格です。1t以上の荷重を扱う作業では、労働安全衛生法に基づき資格取得が義務付けられており、適切な玉掛けを行わない場合には、重大な事故が発生するリスクがあります。この講習では、現場での安全確保に必要な知識や技術を学びます。

本記事では、玉掛け作業で必要となる資格『玉掛け技能講習』について、講習内容や修了に必要な費用、合格率や特別教育との違いを中心にわかりやすく解説します。玉掛け作業の実施を検討している方は、本記事を参考にして、スムーズな資格取得を目指しましょう。

玉掛け技能講習とは

玉掛け作業を行う人

玉掛け技能講習とは、制限荷重1t以上の揚貨装置または吊り上げ荷重1t以上のクレーン、移動式クレーンもしくはデリックの玉掛け業務を行う際に求められる資格です。労働安全衛生法に基づく国家資格です。英語では「Slinging Operation Skill Training Course」と言います。

クレーンは荷物の効率的な運搬に欠かせない重機であり、玉掛け作業には専門的な技能が求められます。玉掛け技能講習を修了することで、倉庫や工場、建設現場などでの玉掛け作業が可能となり、仕事の幅も広がるでしょう。

「玉掛け」とは

玉掛け作業後の様子

玉掛けとは、工場や建設現場などでクレーンを使って重い荷物を持ち上げる際に、フックに荷物を掛けたり外したりする作業のことです。玉掛け作業に従事するためには、技能講習や特別教育を受講し、資格を取得することが義務付けられています。英語では「slinging」です。

資格が必要とされる理由は、重量物を持ち上げる作業には危険が伴うためです。特に玉掛け作業では、荷物のバランスが崩れたり、誤った吊り上げ操作を行うと、重大な事故が発生することがあります。作業時にはロープの強度や長さ、クレーン使用時の角度やバランスなどを考慮し、安全を確保する知識と経験が欠かせません。そのため、講習を通じて基礎知識や実技を学ぶことが求められます。

なお、「玉掛け」という名称の由来は定かではありませんが、一説には掛け軸を掛ける際に用いられた琥珀や瑪瑙などの宝石(玉)が由来とされています。掛け軸もバランスが重要なため、玉掛け作業と似ていることからこの名前が付いたとされています。

玉掛けは、荷物を正しく吊り上げないと落下の危険があり、作業員の怪我や重大な事故を引き起こすおそれがあります。現場の安全を守るためには、正しい手順で玉掛けを行い、常に安全を意識して作業することが不可欠です。

玉掛け技能講習の内容、費用、合格率

本章では、玉掛け技能講習の内容や費用、合格率など、受講前に知っておくべき基本情報を順番に紹介します。

講習内容

玉掛け技能講習は、学科講習と実技講習に分かれています。それぞれの講習内容は以下の通りです。

分類 講習内容
学科 ・クレーン、移動式クレーン、デリック及び揚貨装置に関する知識
・クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識
・クレーン等の玉掛けの方法
・関係法令
実技 ・クレーン等の玉掛け
・クレーン等の運転のための合図

なお、玉掛け技能講習の受講資格は、18歳以上とされています。

時間と日数

玉掛け技能講習は学科科目と実技科目合わせて通常は3日間かけて行われ、それぞれ終了時に試験があります。

以下に、1、2日目(学科および実技科目)のカリキュラムの一例をまとめました(保有している資格により免除される科目があります)。

科目 講習時間
クレーン、移動式クレーン、デリック及び揚貨装置に関する知識 1時間
クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識 3時間(※1)
クレーン等の玉掛けの方法 7時間
関係法令 1時間
学科修了試験 規定時間
クレーン等の運転のための合図 1時間(※2)
合計 13時間+学科試験

※1:以下のいずれかに該当する人は受講が免除される。

  • クレーン運転士免許、移動式クレーン運転士免許等を受けた人
  • 床上操作式クレーン運転技能講習・小型移動式クレーン運転技能講習を修了した人

※2:以下のいずれかに該当する人は受講が免除される。

  • クレーン運転士免許、移動式クレーン運転士免許等を受けた人
  • 床上操作式クレーン運転技能講習・小型移動式クレーン運転技能講習を修了した人
  • クレーン等の運転業務の特別教育を修了した人

続いて、3日目(実技科目)のカリキュラムの一例は、以下の通りです。

科目 講習時間
クレーン等の玉掛け 6時間
実技修了試験 規定時間
合計 6時間+実技試験

参考:コベルコ教習所「玉掛け技能講習」
一般社団法人 日本クレーン協会「玉掛け技能講習規程」

費用

玉掛け技能講習の受講費用の目安は、以下の通りです。

  • 受講料:20,000円〜25,000円前後
  • テキスト代:2,000円〜2,200円前後
  • その他費用(保険料等):2,000円前後

上記はあくまでも目安の金額です。玉掛け技能講習の受講にあたって実際にかかる費用は、各教習所やコースなどによって異なりますので、申し込みの際に確認してください。

合格率

玉掛け技能講習は国家資格であるため、難しいと感じる方も多いかもしれませんが、実際の合格率は90%以上と高く、国家資格の中でも比較的取得しやすい部類に入ります。講習内容をしっかり理解し、試験中も落ち着いて取り組めば、合格の可能性は十分にあります。

なお、後述する「玉掛け特別教育」では試験が行われず、定められたカリキュラムをすべて受講すれば修了証が取得できます。

いずれの講習でも重要なのは、講師の話をよく聞いて内容を理解することです。技能講習は、現場での安全を確保するために欠かせない知識を身につける場であるため、真剣な姿勢で受講することが求められます。資格取得は単なる試験突破ではなく、現場の安全を支えるための基礎を学ぶことだと考え、積極的に学びましょう。

玉掛け技能講習と特別教育との違い

玉掛け作業の監督者

玉掛け作業に関する資格としては、技能講習のほかに特別教育もあります。

玉掛け特別教育は、吊り上げ荷重1t未満の移動式クレーン、クレーンデリック、揚貨装置の玉掛け作業を行うために必要な資格です。社内、社外の教育機関(都道府県労働局長登録教習機関など)で実施されています。

玉掛け技能講習と特別教育は、対象となる吊り上げ荷重が以下の通り異なっています。

  • 玉掛け技能講習:吊り上げ荷重1t以上を含む全ての玉掛け作業
  • 玉掛け特別教育:吊り上げ荷重1t未満の玉掛け作業に限定

つまり、玉掛け技能講習は、玉掛け特別教育よりも吊り上げ荷重の大きい玉掛け作業を行うことが可能です。

なお、玉掛け特別教育の受講費用の大まかな相場は、20,000円前後です(都道府県や教習機関によって異なるので、最寄りの教育機関に要確認)。また、玉掛け特別教育の講習時間は、学科・実技で合わせて10時間(2日間)とされている点も玉掛け技能講習と違います。

玉掛け技能講習の受講の流れ

ここからは、実際に玉掛け技能講習を受講する際の大まかな流れを、以下の6つのステップに分けて取り上げます。

  • 申し込み
  • 学科講習
  • 学科試験
  • 実技講習
  • 実技試験
  • 免許証(修了証)受領

それぞれのステップごとに、順番に詳しく紹介します。

①申し込み

玉掛け技能講習の申し込みは、一般社団法人労働技能講習協会、都道府県労働局長登録教習機関、または全国各地の労働基準協会で受け付けています。本記事では、労働技能講習協会を通じて講習を申し込む方法についてご紹介します。ただし、都道府県労働局長登録教習機関や労働基準協会での申し込みも可能です。

実際に技能講習を受けるためには、まず労働技能講習協会にFAXまたは公式HP上から申し込みを行います。申し込みに使うFAX用紙は、HPからダウンロードできるほか、電話して取り寄せることも可能です。インターネットからの申し込みでは、各回の定員に空きがあるかどうかがわかり便利です。

労働技能講習協会で玉掛け技能講習が実施されているのは、東京と静岡の2箇所です。

講習は労働安全衛生規則第83条玉掛け技能講習規程(労働省告示第119号)に従って、3日間にわたり実施されます。1日目と2日目は学科講習が行われ、3日目は実技講習が行われる流れです。2日目の最後には学科試験で学んだ内容に対して筆記の修了試験があり、3日目の最後には実技の修了試験があります。

②学科講習

学科・実技の講習および試験は、都道府県労働局長登録教習機関にて実施されます。

学科講習としては、「クレーン、移動式クレーン、デリック及び揚貨装置に関する知識(1時間)」「クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識(3時間)」「クレーン等の玉掛けの方法(7時間)」「関係法令(1時間)」を受講します。

学科講習の受講後に実施される学科試験に合格するためにも、そして将来的にクレーンの仕事に携わるためにも、学科講習を受講する際は講師の話を真剣に聞いておきましょう。

③学科試験

学科講習の内容をもとに、学科試験が実施されます。学科試験は、マークシート形式で出題されます。

学科試験の内容や対策について、詳しくは次章で解説しています。

④実技講習

実技講習では、「クレーン等の運転のための合図(1時間)」「クレーン等の玉掛け演習(6時間)」を学びます。実技演習では積極的に実技に参加しながら、玉掛けについての練習を納得いくまで行い、実技試験に備えましょう。

⑤実技試験

玉掛け技能講習を修了するための最後のステップは、実技試験の受験です。実技試験に合格するためには、実技講習で学んだ技術を実際の運転操作で示す必要があります。

実技試験の内容・対策についても、次章で詳細に解説しています。

⑥免許証(修了証)受領

学科試験、実技試験いずれも合格すると、技能講習修了証(修了証)が交付されます。

なお、修了証は原本のため、法律で保持が義務付けられています。失くしたり、氏名が変更になったりした場合で、修了証を受けた登録教習機関が現在も修了証の発行業務を実施している場合には、その登録教習機関での再発行が必要となります。

参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「技能講習修了証明書発行のご案内」

試験内容と対策

玉掛け作業の内容を確認する作業者

玉掛け技能講習を修了するには、学科・実技それぞれの講習後に実施される試験に合格する必要があります。

本章では、学科試験と実技試験それぞれの内容・対策について順番に解説します。

学科試験

学科試験はマークシート形式で出題され、学科講習で学んだ内容をもとに出題されるため、講習をしっかりと復習しておくことが大切です。玉掛け作業に必要な知識をしっかり理解し、重要なポイントを押さえておきましょう。

なお、玉掛け技能講習を修了するためには、基本的に事前に特別な勉強をしておく必要はありません。講習中に講師の話を真剣に聞き、教えられた内容をきちんと理解しておけば、合格は難しくないでしょう。ポイントを抑え、冷静に試験に臨むことが合格への近道です。

参考までに、学科試験の例題を一つご紹介します。

問題 以下の文章を読んで内容が正しい場合は〇、間違っている場合は×を記入しなさい。

「クレーンとは、荷を動力を用いて吊り上げ、これを垂直に運搬することを目的とする機械を指す。」

正解 ×

正しい記述は以下の通り。
「クレーンとは、荷を動力を用いて吊り上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械を指す」

参考:一般社団法人 日本クレーン協会「クレーンの知識」

実技試験

実技試験で行う作業や動作は、実技講習中に何度も練習するので、その手順をしっかり守れば問題なく進められます。ただし、教わったことを単に暗記するだけでは、思わぬミスを招くこともあります。各作業の意味を理解し、事前に手順をシミュレーションしておくことが重要です。

試験内容としては、実際にクレーンやブロックを使用し、吊り荷の確認や用具の選定、フックの掛け外し、クレーン運転手への合図や指示などを行います。講師は受講者の技術や作業の安全性、効率性などを総合的に評価します。特に運転手への合図や指示では、正確で明確な伝達が求められ、判断ミスや伝達ミスは減点対象となるため注意が必要です。

試験では、クレーン操作には複数の役割が必要となるため、受講者が3人1組のグループとなり、作業者と補助者に分かれて作業を進めるのが一般的です。他の受講者の前で行うため緊張しやすい環境ですが、グループメンバーと声を掛け合い、協力しながら作業を行うことが大切です。互いにコミュニケーションを取りながら冷静に対応することで、緊張を和らげ、ミスを防げるでしょう。

以上、玉掛け技能講習の試験内容と対策を紹介しました。

玉掛け技能講習と併せて取りたい免許・資格

玉掛け作業を行うためには本記事で紹介した「玉掛け技能講習」や「玉掛け特別教育」などの修了が必要ですが、これに加えて「移動式クレーン運転士」や「クレーン・デリック運転士」といったクレーン関連の資格も取得することで、現場での活躍の幅がさらに広がります。

玉掛け作業ではクレーンオペレーターとのスムーズなコミュニケーションが求められます。例えば、クレーンの動きや荷物の吊り方を理解し、適切なタイミングで合図を送ることが、安全で効率的な作業が可能になります。クレーンの知識を持つことで、指示や合図の正確さが増し、安全な作業環境の確保につながります。そのため、玉掛けとクレーンの資格をセットで取得することをおすすめします。

なお、クレーンにはさまざまな種類があり、運転に必要な免許や資格も異なるため、どの資格が自分の業務に必要か事前に確認しておくと良いでしょう。

「移動式クレーン運転士」および「クレーン・デリック運転士」について詳しく知りたい場合は、それぞれ以下の記事をご覧ください。

移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
クレーン・デリック運転士とは?種類や費用、合格率・難易度を解説

まとめ

この記事では、玉掛け技能講習の内容や費用、合格率や試験内容・対策について詳しく解説しました。玉掛け技能講習の修了は、倉庫や工場、建設現場などで安全に作業を行うために必要不可欠です。

そして、玉掛け技能講習の修了は、作業の安全性だけでなく、効率性の向上にも直結します。この記事を参考に、しっかりと準備を進め、スムーズに資格取得を目指しましょう。資格の取得後は安全作業を心がけて、玉掛けに自信を持って取り組んでください。

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