油圧ショベルに必要な免許とは?種類・取得方法・注意点を解説
建設現場や土木工事では「ユンボ」や「ショベルカー」などの重機がよく見られますが、これらを操作するためには所定の免許・資格が必要になることをご存じでしょうか。
ユンボやショベルカーといった重機は、正式には「油圧ショベル」と呼ばれています。つまり、油圧ショベルの免許・資格は、これらの重機に共通するものです。
本記事では、油圧ショベルの操作に必要な免許・資格の種類や取得方法を解説します。また、よくある誤解や注意点についても、初心者の方々が理解しやすいように丁寧に解説していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
油圧ショベルに必要な免許とは?

油圧ショベルは掘削機械の一種で、掘る・運ぶ・吊るといった作業を1台でこなせる重機です。呼称は複数あり、ユンボやパワーショベル、バックホウ、ドラグショベル、エクスカベーターと呼ばれることがあります。
油圧ショベルは建設現場や解体作業、土木工事などさまざまな現場で使われており、操作を担当するオペレーターの需要も高いのが特徴です。
ただし、安全性や法令の観点から、誰でも自由に油圧ショベルを操作できるわけではありません。使用する油圧ショベルの大きさや作業内容に応じて、必要な免許・資格を取得しておくことが義務づけられています。
油圧ショベルの特徴について理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。
油圧ショベルの操作に必要な免許・資格の種類
油圧ショベルの操作に必要な免許・資格には、大きく以下の種類があります。
- 車両系建設機械(整地等)運転技能講習
- 小型車両系建設機械(整地等)運転特別教育
- 大型特殊自動車免許または小型特殊自動車免許
どの免許・資格が必要となるかは、「使用する油圧ショベルの大きさ」や「作業内容」によって決まります。それぞれの免許・資格について、順番に詳しく解説します。
車両系建設機械(整地等)運転技能講習
油圧ショベルの中でも、車両重量3t以上の機種を操作する場合には、「車両系建設機械(整地等)運転技能講習」の修了が必要とされます。
一般的に、油圧ショベルの操作に必要な資格は「車両重量3t未満の場合は特別教育」「3t以上の場合は技能講習」です。ただし、現場や機械の仕様によっては、資格の区分や必要な講習が異なる場合もあるため、実際の運用については現場責任者や監督署に確認することをおすすめします。
下表に、車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転技能講習の概要をまとめました。
| 資格の情報 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | 5〜11万円前後(地域や実施機関によって差がある) |
| 日数 | 14〜38時間(2〜6日間)前後 |
| 受講資格 | 18歳以上 |
| 申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関(メーカー運営の教習所など) |
受講を修了すると、労働安全衛生法に基づく「技能講習修了証」が交付されます。
小型車両系建設機械(整地等)運転特別教育
小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転特別教育は、車両重量3t未満の油圧ショベル(いわゆるミニユンボ)の運転に必要な資格です。車両重量3t未満の油圧ショベルは、主に軽作業や住宅設備工事、狭小地での掘削などに活用されています。
下表に、小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転特別教育の概要をまとめました。
| 資格の情報 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | 2万円前後 |
| 日数 | 13時間(2日間)前後 |
| 受講資格 | 18歳以上 |
| 申込先 | 社内、社外の教習機関(都道府県労働局長登録教習機関など) |
受講を修了すると、労働安全衛生法に基づく「特別教育修了証」が交付されます。
参考:厚生労働省「労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など」
大型特殊自動車免許・小型特殊自動車免許(公道を走行する場合)
油圧ショベルのうち、ホイール式のものは公道走行が認められているケースが多いですが、キャタピラー式の場合は原則として公道走行はできません(ただし、特例的な運用や一時的な横断が認められる場合もあります)。
また、公道を走行する際は「大型特殊自動車免許」または「小型特殊自動車免許」が必要となりますが、詳細は車両の登録状況や自治体の運用によって異なる場合があるため、事前に確認しておくと安心です。
大型特殊自動車免許は、大型特殊自動車を公道で走行させるための免許です。道路交通法上、大型特殊自動車の基準は「小型特殊自動車の規格をこえるもの」とされています。
また、小型特殊自動車免許は、小型特殊自動車を公道で走行させるための免許です。小型特殊自動車の規格は、以下のとおり定められています。
| 全長 | 4.7m以下 |
|---|---|
| 全幅 | 1.7m以下 |
| 全高 | 通常は2.0m以下。ただし、ヘッドガードなどの安全装置を備えた車両については、その装置を除いた本体部分の高さが2.0m以下であれば、全体としては2.8m以下まで認められています。 |
| 最高速度 | 時速15km以下 |
すでに普通自動車免許や普通自動二輪免許を所持している場合、小型特殊自動車免許は下位免許にあたるため、新たに取得しなくても小型特殊自動車の運転が可能です。
大型特殊自動車免許および小型特殊自動車免許の取得先は、各都道府県の運転免許センターや運転免許試験場です。
参考:警視庁「小型特殊免許試験」
国土交通省「自動車の種類」
免許・資格別の違いを比較表で確認
下表に、ここまでに紹介した免許・資格の主な違いをまとめました。
| 比較項目 | 技能講習 | 特別教育 | 大型特殊免許 小型特殊免許 |
|---|---|---|---|
| 対象重量 | 3t以上 | 3t未満 | なし(全長、全幅、全高、最高速度による区分あり) |
| 試験機関 | 都道府県労働局長登録教習機関 | 社内、社外の教習機関(都道府県労働局長登録教習機関など) | 運転免許センター、運転免許試験場 |
| 修了証 | あり | あり | 免許証の発行 |
| 学科・実技講習 | 両方必須 | 両方必須 | 【大型】 両方必須(原則)【小型】 学科のみ |
| 日数 | 2〜6日前後 | 2日前後 | 【大型】 1〜4日前後【小型】 1日 |
| 費用相場 | 5〜11万円前後 | 2万円前後 | 【大型】 教習所での取得:7~13万円前後 一発試験での取得:6,000円前後(受験料と交付手数料のみ。練習や対策費用は別途必要【小型】 受験料:1,500円 交付手数料:2,050円 |
油圧ショベルの免許・資格を取得する方法

本章では、油圧ショベルの免許・資格を取得する方法について種類ごとに順番に紹介します。
車両系建設機械(整地等)運転技能講習の流れ
以下に、車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転技能講習を受講する際の大まかな流れをまとめました。
| 流れ | 詳細 |
|---|---|
| ①申込 | 全国各地にある都道府県労働局長登録教習機関で申込が可能。 |
| ②受講資格の確認 | 原則18歳以上、実務経験は不要(実務経験がある場合は、受講時間が短縮されるケースあり)。 |
| ③学科講習 | 機械の構造、安全管理などを学ぶ。 |
| ④学科試験 | 講習内容の各項目から出題される。回答は選択式で、選択肢から「合っているもの」または「間違っているもの」を選択する。 |
| ⑤実技講習 | 操作技術を中心に実践形式で学ぶ。 |
| ⑥実技試験 | 走行や掘削に関する試験が実施される。 |
| ⑦修了証の交付 | 学科試験、実技試験ともに合格すると交付される。 |
講習時間は、一般的に最短で14時間(2日間)程度とされますが、受講者の実務経験の有無や教習機関ごとのカリキュラムによって、3〜6日程度かかる場合もあります。詳細な受講条件や時間数は、各教習機関で異なるため、事前の確認が推奨されます。
参考:ロイヤル パワーアップスクール「車両系建設機械【整地・運搬・積込み用及び掘削用】の資格の取り方」
小型車両系建設機械(整地等)運転特別教育の流れ
以下に、小型車両系建設機械(整地等)運転特別教育を受講する際の大まかな流れをまとめました。
| 流れ | 詳細 |
|---|---|
| ①申込 | 社内または社外(例:都道府県労働局長登録教習機関)で申込が可能。 |
| ②受講資格の確認 | 原則18歳以上、実務経験は不要。 |
| ③学科・実技講習 | 技能講習に比べて内容は簡易的であるものの、念入りに学ぶ必要あり。 |
| ④修了証の交付 | 全課程を受講すれば修了証が発行される。 |
参考:コマツ教習所「小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)の運転の業務に係る特別教育」
大型特殊自動車免許の流れ
大型特殊自動車免許を取得する方法には、大まかに2つのルートがあります。
1つは大型特殊免許の教習を実施している自動車教習所に通い、所定のカリキュラムを修了した上で技能検定に合格する方法です。もう1つは、各都道府県の運転免許センターや運転免許試験場で直接技能試験を受けて合格する方法で、いわゆる「一発試験」と呼ばれるものです。
どちらの方法を選んでも、最終的には運転免許試験場で学科試験に合格する必要があります。以下、自動車教習所に通って免許を取得する場合の大まかな流れを紹介します。
- 入校手続き
- 学科講習
- 実技講習
- 卒業検定
- 免許の交付
自動車教習所で大型特殊自動車免許を取得する場合、通常は22時間の学科講習と12時間の実技講習を受ける必要があります。
ただし、すでに普通自動車免許(準中型・中型・大型免許を含む)を持っている場合は、学科講習がすべて免除され、実技講習6時間の受講のみで卒業検定に進めます。また、自動二輪免許を所持している場合は、実技講習が10時間に短縮されます。
教習のスケジュールには、以下の有効期限がある点に注意が必要です。
- 教習の有効期間は、開始日から3か月以内
- 卒業検定の受験期限は、教習修了から3か月以内
この期間を過ぎると、教習が無効となってしまいます。普通自動車免許の教習期限(9か月)より短いため、計画的に受講を進めることが大切です。
なお、大型特殊自動車免許は、満18歳以上であれば誰でも取得可能です。
参考:加東自動車教習所「大型特殊自動車免許」
三条自動車学校 「大型特殊免許 取得までの流れ」
小型特殊自動車免許の流れ
小型特殊自動車免許を取得する際は、実技試験は行われません。運転免許センターや各都道府県の運転免許試験場で適性検査と学科試験に合格するだけで、その日のうちに免許が交付されます。
以下に、小型特殊免許の取得までの基本的な流れをわかりやすくまとめました。
- 受付
- 適性検査
- 学科試験
- 免許交付
なお、小型特殊自動車免許は、制度上は満16歳から取得可能です。実際の取得には、地域の試験場での実施スケジュールや本人確認書類の提出などが必要になるため、事前に試験場の案内を確認しておくと安心です。
油圧ショベルの免許についてよくある誤解と注意点
本章では、油圧ショベルの免許・資格についてよくある誤解と注意点をまとめました。
「運転免許があれば操作できる」は誤解
大型特殊自動車免許(または小型特殊自動車免許)を持っていても、油圧ショベルを使って現場で作業するためには別途、技能講習や特別教育の修了が必要です。道路を走行するための免許と、現場で作業するための資格は別にあることを把握しておきましょう。
資格ごとの適用範囲に注意
資格を取得する際は、それぞれの資格が適用される範囲を正しく理解しておくことが大切です。
また、資格を持っていても、対象外の重機を操作すれば法令違反に問われる可能性があります。自分が持っている資格で操作できる重機の範囲を十分に把握し、無理のない範囲で業務にあたることが重要です。
現場ルールが法律より厳しいこともある
現場によっては、法律で定められた基準よりも厳しい独自のルールが設けられている場合もあります。
例えば、「安全管理のため、油圧ショベルの操作については、車両重量3t未満の機種であっても技能講習を修了した人に限定する」といったルールです。このように、たとえ法律上は問題がなくても現場の判断で追加の条件が課される場合があります。
そのため、実際に作業に入る前には、現場のルールや運用方針を事前に確認しておくことが大切です。安全に作業を進めるためにも、現場ごとの決まりには必ず従いましょう。
資格なしで油圧ショベルを操作した場合のリスク

資格を持たずに油圧ショベルを操作することは、非常に大きなリスクを伴います。
例えば、車両重量が3t以上の油圧ショベルを無資格で運転することは、労働安全衛生法違反にあたります。作業者本人だけでなく、雇用主や元請業者にも法的責任が問われます。状況によっては、罰金や行政処分などの厳しい罰則が科される可能性もあります。
また、無資格者による操作は事故のリスクが高まりやすく、万が一の際に保険が適用されないケースもあるため、経済的な損失も大きくなります。
一時的なコスト削減のつもりで無資格の操作を許可すると、結果的に大きなトラブルや企業の信用失墜につながるおそれがあります。安全と信頼を守るためにも、必ず正しい資格を取得した上で作業を行いましょう。
油圧ショベルをはじめとする重機の免許や資格について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みください。
油圧ショベルの資格取得に関するQ&A
最後に、油圧ショベルの資格取得に関してよくある質問と回答をまとめました。
Q1:資格は全国どこでも使えますか?
はい、技能講習や特別教育の修了で取得した資格は日本全国どこでも有効です。各現場で提示を求められる場合もあるため、常に携帯しておくと安心です。
Q2:女性や高齢者でも取れますか?
取得に年齢や性別の制限はなく、18歳以上であれば誰でも資格取得が可能です。体力に不安がある場合でも安全に基本操作を習得できるよう、講習で十分に指導が行われます。
Q3:資格に有効期限はありますか?
現在の制度では、油圧ショベルの資格に法令上の有効期限は設けられていません。ただし、企業や現場の方針によっては、一定期間ごとの安全講習や再教育の受講を義務付けている場合もあります。実際の運用については、あらかじめ所属先や現場のルールを確認しておくと安心です。
Q4:油圧ショベルで吊り作業をする場合、別の資格は必要?
はい、油圧ショベルで吊り作業を行う場合は、「玉掛け技能講習」または「玉掛け特別教育」の修了が必要になることがあります。吊り作業とは、油圧ショベルにフックなどを装着し、資材や重量物を吊り上げて移動させる作業のことを指します。
特に注意したいのは、吊り荷の「掛け外し」を行う作業者に対して、荷の重量に応じた資格が必要になる点です。たとえフック付きバケットを使用していても、吊り作業として扱われる以上、玉掛けの技能講習や特別教育が求められるケースがあります。
また、クレーン仕様の油圧ショベルを使用する場合には、「移動式クレーン運転士」や「小型移動式クレーン運転技能講習」といった別の資格も必要です。現場や作業内容によって求められる資格は異なるため、事前に現場責任者や監督署などに確認しておくと確実です。
以下の記事で、玉掛け技能講習および移動式クレーンの免許について、それぞれ詳しく解説しています。
玉掛け技能講習とは?内容や費用、合格率、特別教育との違いを解説
移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
参考:コベルコ建機「持っていますか?油圧ショベルでの作業に必要な資格」
まとめ|必要な資格を確認して正しく油圧ショベルを扱おう
油圧ショベルは、汎用性の高さからさまざまな現場(建設、土木、解体現場など)で活用されている重機です。ただし、操作に必要な免許・資格は、油圧ショベルの大きさや使用場所によって異なります。安全に運転するためには、それぞれの免許・資格の種類と適用範囲を正しく理解しておくことが大切です。
- 車両重量3t未満:特別教育の修了
- 機体重量3t以上:技能講習の修了
- 公道を走行する場合:大型特殊免許または小型特殊免許
資格を持たないまま油圧ショベルを操作すると、法律違反となるだけでなく、事故が発生した際には重大な責任を問われる可能性があります。
現場で信頼され、安全に作業を行うためにも、自分に必要な資格を確実に取得しておきましょう。
