デリックとは?クレーンとの違いや種類、必要な免許を解説
デリックは荷を上下に揚げ降ろしするための重機で、建設現場や港湾、工場などでの荷物の運搬に使用されています。一般的なクレーンと比べて、デリックは単純な構造を持ちながらも強力な揚力を発揮できる上に、操作が単純である点も特徴的です。
本記事では、デリックの基本的な特徴・用途やクレーンとの違い、種類について詳しく解説します。デリックを操作するために必要な免許についても紹介するので、現場でのデリックの導入や資格の取得を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
デリックとは?
デリックとは、荷を動力によって吊り上げることを目的とする機械装置の中でもマスト(支柱)またはブームを備え、原動機(ウインチ)を別置してワイヤロープによって操作するものを指します。
吊り荷の水平移動はデリックの要件には含まれないため、中には荷を水平に運搬できない機種も存在します。また、吊り上げ荷重が0.5t未満のデリックは、クレーン等安全規則の適用を受けないため、法令上のデリックには該当しません。
多くのデリックは、マストを中心にして、吊り荷をワイヤーで吊り上げて運搬するシンプルな仕組みです。そのため、設置場所に応じて様々な形状の機種が使い分けられており、設置場所が限られた現場でも対応可能な柔軟性が特徴です。
デリックの構造
デリックの基本構造は、トラス構造(※)で組まれた鉄骨製のマストとブームで成り立っています。荷物を効率的に持ち上げられるよう、マストは地面に垂直に固定され、高い位置に設置されています。
高く設置する理由は、揚力を効率的に活かし、吊り荷の移動範囲を広げるためです。マストに支持された長いブームが荷物の真上に移動し、ブームを伝うワイヤーロープで荷物を引き上げます。この設計により、デリックは設置場所を最大限に活かした作業が可能になります。
デリックによる作業は、ワイヤーロープの巻き上げと弛緩の操作で行われるのが基本です。なお、ワイヤーを巻き上げるためのウインチはデリックの本体に組み込まれておらず、少し離れた場所に設置されるのが特徴です。
※:三角形を基本単位として構成された構造形式で、各部材の端部節点がピン接合されているものを指す
デリックとクレーンの違い
デリックとクレーンを混同している人が多いので、ここで両者の違いを解説します。
クレーンとは、荷物を動力で持ち上げ、水平に移動させることを目的とした重機を指します。油圧シリンダーやワイヤーなどを用いて、荷物を持ち上げるブームを操ります。
一方のデリックは動力を使って荷物を持ち上げる重機である点は共通していますが、水平に移動させることは定義に含まれません。また、原動機によってワイヤーを操作し、荷物を持ち上げるのが特徴的です。
以上をまとめると、クレーンと違って、デリックには水平移動が可能なものとそうでないものがあります。さらに、デリックには油圧シリンダーがない他、ウインチが本体から独立している点もクレーンとの違いとして挙げられます。
クレーンの定義や種類、関係する資格について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
デリックの種類
デリックには、使用目的や設置場所に応じた様々な種類があります。ここでは、代表的なデリックの種類として、以下の4つを取り上げます。
- ガイデリック
- スチフレッグデリック
- ジンポールデリック
- 鳥居形デリック
それぞれの特徴を順番に解説しますので、把握した上で導入する種類を検討しましょう。
ガイデリック
ガイデリックは、頑丈な架台に固定された「マストステップ」と呼ばれる受け台に、垂直に設置した1本のマストを据え付け、その根元にブームをピンで接続しています。マスト上部には6本以上のガイロープが取り付けられており、ガイロープの端はアンカーに固定され、ターンバックルなどで張りを調整しています。
荷物の持ち上げやブームの動き、旋回操作はマスト下部の滑車(シーブ)を通して、離れた場所に設置されたウインチで制御される仕組みです。
ガイデリックは広い設置スペースが必要なため、屋外での機械の組み立てや資材置き場などで利用されることが多いです。ガイデリックの旋回範囲は、マストを中心として360度が標準です。ただし、設置されたガイロープの間を避ける形で旋回するため、作業時の具体的な範囲は制限されることがあります。そのため、実際の使用ではガイロープの張り方やアンカーの位置によって、作業の効率が左右されます。
スチフレッグデリック
スチフレッグデリックは、直立した1本のマストを2本の「スチフレッグ」と呼ばれる支えで後方から固定し、マストの根元に長いブームをピンで結合する構造が特徴的です。
スチフレッグデリックでは巻き上げやブームの起伏、旋回が可能ですが、2本のスチフレッグによって旋回範囲は240度に制限されています。
ガイデリックに比べて設置に必要なスペースが小さい一方で安定性は優れており、重量物をはじめ特殊な荷物の吊り上げ作業に利用されることが多いです。
ジンポールデリック
ジンポールデリックは、1本のマストとガイロープ、ウインチおよびその他の付属部品で構成されるシンプルな構造が特徴です。
傾斜した1本のマストを3本以上のガイロープで支えて使用するため、マストの下部をしっかりと固定する必要があります。
ブームがないため垂直方向の巻き上げのみが可能で、水平移動はできません。この特性から、ジンポールデリックは機械の設置や組み立てといった仮設用途に適しています。
鳥居形デリック
鳥居形デリックは、2本の垂直なマストおよび、その上部をつなぐ横はりで構成されています。鳥居形デリックの構造は、ガイロープでしっかりと支えられ、安定性を保つよう設計されています。
通常、複数のつり具を組み合わせて使用し、荷の巻き上げや降ろしを行います。重量物の特殊な持ち上げ作業に適した設備として活用されています。
参考:一般社団法人 日本クレーン協会「クレーンの知識|クレーンの定義」
デリックの操作に必要な免許
デリックの取り扱いにあたっては、操作する場所や作業内容によって必要な免許・資格が異なる点に注意しましょう。デリックの操作に関する免許・資格は、以下の3つです。
- 地上での操作:クレーン・デリック運転士免許など
- 船上での操作:揚貨装置運転士免許など
- 玉掛け作業:玉掛け技能講習の修了など
それぞれの免許・資格について、それぞれ詳しく解説します。
地上
地上でデリックを操作するためには、以下の免許・資格が必要です。
- 吊り上げ荷重5t以上のデリックの操作:クレーン・デリック運転士免許
- 吊り上げ荷重5t未満のデリックの操作:デリック運転の業務に係る特別教育
このようにデリックの運転に関する免許・資格は大きく2種類に分かれますが、ここではクレーン・デリック運転士免許をピックアップし、下表に概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 100,000円〜120,000円前後 |
試験内容・日数 | 【学科(通常13:30~16:00、2時間30分)】 ・クレーン及びデリックに関する知識:10問(30点) ・関係法令:10問(20点) ・原動機及び電気に関する知識:10問(30点) ・クレーンの運転のために必要な力学に関する知識:10問(20点)【実技】 ・クレーンの運転 ・クレーンの運転のための合図 |
受験資格 | 18歳以上 |
申込先 | 公益財団法人安全衛生技術試験協会、各地の安全衛生技術センターなど |
参考HP | https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku250.htm |
クレーン・デリック運転士免許について、詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
クレーン・デリック運転士とは?種類や費用、合格率・難易度を解説
船上
船上でデリックを操作するためには、以下の免許・資格が必要です。
- 吊り上げ荷重5t以上のデリックの操作:揚貨装置運転士免許
- 吊り上げ荷重5t未満のデリックの操作:揚貨装置の運転業務に係る特別教育
ここでは揚貨装置運転士免許をピックアップし、下表に概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 受験手数料:14,000円 |
試験内容・日数 | 【学科(13:30~16:00、2時間30分)】 ・揚貨装置に関する知識:10問(30点) ・関係法令:10問(20点) ・原動機及び電気に関する知識:10問(20点) ・揚貨装置の運転のために必要な力学に関する知識:10問(30点)【実技(時間は午前・午後に分けて受験票に記載)】 ・揚貨装置の運転 ・揚貨装置の運転のための合図 |
受験資格 | 18歳以上 |
申込先 | 公益財団法人安全衛生技術試験協会、各地の安全衛生技術センターなど |
参考HP | https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku212.htm |
揚貨装置運転士免許の詳細は、以下の記事でまとめています。
揚貨装置運転士とは?免許の取得方法や流れ、特別教育との違いを解説
玉掛け作業
デリックの玉掛け作業を行うには、以下の資格が求められます。
- 吊り上げ荷重1t以上を含む全てのデリックでの玉掛け作業:玉掛け技能講習
- 吊り上げ荷重1t未満のデリックでの玉掛け作業:玉掛けの業務に係る特別教育
ここでは玉掛け技能講習をピックアップし、下表に概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 40,000円前後 |
日数 | 30時間(3日間) |
講習内容 | 【学科(18時間)】 ・クレーン、移動式クレーン、デリック及び揚貨装置に関する知識 ・クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識 ・クレーン等の玉掛けの方法 ・関係法令【実技(12時間)】 ・クレーン等の玉掛け ・クレーン等の運転のための合図 |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関 |
玉掛け技能講習について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。
玉掛け技能講習とは?内容や費用、合格率、特別教育との違いを解説
まとめ
デリックは、シンプルな構造でありながら高い揚力を発揮する装置として、建設現場や港湾、工場などで重要な役割を果たしています。クレーンと比べて設置が容易で、特定の場所での荷物の揚げ降ろしや運搬に特化していることから、設置スペースが限られている現場や、特定の場所に固定して使用する用途に適しています。
デリックを安全に運転するためには、適切な資格や免許の取得が必要です。免許取得に必要な知識や技術を身につけることで、作業の効率化だけでなく、安全な作業環境の確保にもつながります。
本記事を参考に、デリックの基本的な特徴や用途、クレーンとの違い、必要な免許について理解を深め、現場でのデリック運用にお役立てください。