免許・資格 2024.12.05

クレーン・デリック運転士とは?種類や費用、合格率・難易度を解説

クレーンやデリックは、工場、建設現場、港湾などで重量のある資材・荷物を運搬する際に欠かせない重機です。これらの重機を運転するためには、国家資格である「クレーン・デリック運転士」が必要です。この資格を取得することで、業務の幅を広げることができ、キャリア形成にも役立ちます。

しかし、一口にクレーン・デリック運転士と言っても、実際にはさまざまな種類があり、用途によって取得すべき資格が異なります。資格を取得するには一定の費用や時間がかかるため、目的に合った資格を選ぶためにも、事前に十分な情報収集と計画が求められます。

この記事では、クレーン・デリック運転士の種類や取得にかかる費用、合格率や難易度について詳しく解説します。クレーンやデリックの操作を目指している方は、ぜひ参考にして資格取得に向けた一歩を踏み出しましょう。

クレーン・デリック運転士とは

クレーン・デリックの運転者

クレーン・デリック運転士は、天井クレーンや橋形クレーン、ジブクレーン、ガイデリック、スチフレッグデリック、ジンポールといった各種クレーン及びデリックなどを運転するために必要な資格です。労働安全衛生法に定められている国家資格であり、クレーンやデリックを安全かつ適切に操作するために必要となる資格です。

クレーンは、工場、倉庫、建設現場などで広く用いられています。また、デリックは建設現場等で用いられている重機です。デリックは主に垂直方向の荷物の昇降を目的とした簡易クレーンであり、高層建築や橋梁工事などの現場で使用されます。クレーンとの違いは、操作が比較的単純である点です。

クレーン・デリック運転士の種類

クレーン・デリック運転士の資格は、以下の3つに細分化されています。

  • クレーン・デリック運転士免許(限定なし)
  • クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)
  • クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)

それぞれの種類に見られる特徴を順番に詳しく解説します。

クレーン・デリック運転士(限定なし)

クレーン・デリック運転士免許(限定なし)の取得によって、吊り上げ荷重5t以上を含め、すべてのクレーン(跨線テルハを除く)・デリックを運転できるようになります。ちなみに、跨線テルハとは鉄道の線路や駅に設置され、線路を跨いで荷物や設備を吊り上げたり運搬したりするための特殊なクレーンです。

クレーン・デリック運転士(クレーン限定)

クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)を取得すれば、吊り上げ荷重5t以上を含め、すべてのクレーン(跨線テルハを除く)を運転できるようになります。

なお、クレーン・デリック運転士(限定なし)とは違い、デリックの運転はできない点には注意が必要です。

クレーン・デリック運転士(床上運転式クレーン限定)

クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)を取得すると、吊り上げ荷重5t以上を含め、すべての床上運転式クレーンを運転できるようになります。

なお、「床上運転式クレーン限定」の文言通り、この資格では床上運転式クレーン以外のクレーン(床上操作式クレーン、跨線テルハなど)やデリックの運転はできません。

以上、クレーン・デリック運転士免許の種類を紹介しました。各免許の限定を解除する「限定解除」試験も年に一度(10月)実施されています。

クレーン・デリック運転士の取得方法

クレーン・デリック運転士の実技試験

資格の概要を把握したところで、本章ではクレーン・デリック運転士免許を実際に取得する際の方法を解説します。

学科試験

クレーン・デリック運転士免許を取得するためには、学科試験を受けて合格する必要があります。

通常、学科試験の時間は2時間30分で、以下の内容で実施されます。

  • クレーン及びデリックに関する知識:10問(30点)
  • 関係法令:10問(20点)
  • 原動機及び電気に関する知識:10問(30点)
  • クレーンの運転のために必要な力学に関する知識:10問(20点)

ここからは、参考までに「クレーン・デリック運転士(限定なし)」の学科試験で過去(令和6年10月掲載)に出題された問題を3つ紹介します。

問題 クレーンに関する用語の記述として、適切でないものは次のうちどれか。

①起伏するジブクレーンの定格荷重とは、クレーンの構造及び材料並びにジブの傾斜角及び長さに応じて負荷させることができる最大の荷重から、フックなどのつり具の質量を除いた荷重をいい、クレーンによっては、ジブの傾斜角や長さに応じて定格荷重が変化するものがある。

②天井クレーンのスパンとは、クレーンが走行するレールの中心間の水平距離をいう。

③天井クレーンの吊り上げ荷重とは、クレーンの構造及び材料に応じて負荷させることができる最大の荷重をいい、フックなどのつり具分が含まれる。

④起伏するジブクレーンの作業半径とは、ジブの取付けピンの中心から、ジブ先端のシーブの中心までの距離をいい、引込みクレーンでは、水平引込み機構により、ジブを起伏させると作業半径が変化する。

⑤定格速度とは、定格荷重に相当する荷重の荷をつって、巻上げ、走行、横行、旋回などの作動を行う場合の、それぞれの最高の速度をいう。

正解
問題 クレーンの構造部分に関する記述として、適切でないものは次のうちどれか

①橋形クレーンの脚部には、剛脚と揺脚があり、その構造は、ボックス構造やパイプ構造が多い。

②天井クレーンのサドルは、クレーンガーダを支え、クレーン全体を走行させる車輪を備えた構造物である。

③プレートガーダは、細長い部材を三角形に組んだ骨組構造で、強度が大きい。

④Iビームガーダは、I形鋼を用いたクレーンガーダで、I形鋼の断面のみである程度の水平力を支えることができるため、補桁なしで用いることもある。

⑤ボックスガーダは、鋼板を箱形状の断面に構成したもので、水平力を支えることができる構造であるため、補桁は不要である。

正解
問題 クレーンの運動とそれに対する安全装置などの組合せとして、適切なものは
次のうちどれか。①走行 ………… 走行車輪直径の4分の1以上の高さの車輪止め
②横行 ………… 横行車輪直径の5分の1以上の高さの車輪止め
③起伏 ………… 逸走防止装置
④巻下げ ……… 重錘形リミットスイッチを用いた巻過防止装置
⑤巻上げ ……… ねじ形リミットスイッチを用いた巻過防止装置
正解

出典:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「公表試験問題|労働安全衛生法に基づく免許試験」

実技試験

クレーン・デリック運転士免許を取得するためには、実技試験への合格も求められます。なお、教習所でのクレーン運転実技教習を修了している場合は、実技試験が免除されます(試験の免除について、詳しくは後述)。

実技試験の内容は、以下の通りです。

  • クレーンの運転
  • クレーンの運転のための合図

参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「受験資格|クレーン・デリック運転士(制限なし)」

試験の免除について

クレーン・デリック運転士の学科試験と実技試験は、所定の条件を満たしている場合に一部または全科目の受験が免除されます。

以下に、免除を受けられる条件と試験内容(科目)をまとめました。

免除の条件 免除試験(科目)
以下のいずれかを満たしている場合

・クレーン運転実技教習(床上運転式クレーンを用いて行うものを除く)を修了し、その修了日から起算して1年以内の場合

・鉱山において吊り上げ荷重が5t以上のクレーン(床上操作式クレーン及び床上運転式クレーンを除く)の運転の業務に1ヶ月以上従事した経験を有する場合

実技試験の全部(学科試験のみの受験となる)
以下のいずれかを満たしている場合

・床上運転式クレーンを用いて行うクレーン運転実技教習を修了し、その修了日から起算して1年以内の場合

・鉱山において吊り上げ荷重が5t以上の床上運転式クレーンの運転の業務に1ヶ月以上従事した経験を有する場合

実技試験
・運転のための合図
クレーン・デリック運転士(限定なし)の学科試験に合格し、その学科試験が行われた日から起算して1年以内の場合 学科試験の全部(実技試験のみの受験となる)
クレーン・デリック運転士(クレーン限定、床上運転式クレーン限定)の学科試験に合格し、その学科試験が行われた日から起算して1年以内の場合 学科試験
・原動機及び電気に関する知識
・力学に関する知識
クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)を有する場合
※旧クレーン運転士免許を含む
学科試験
・原動機及び電気に関する知識
・力学に関する知識実技試験の全部
クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)を有する場合
※旧クレーン運転士免許(床上運転式限定)を含む
学科試験
・原動機及び電気に関する知識
・力学に関する知識実技試験
・運転のための合図
以下のいずれかを満たしている場合

・移動式クレーン又は揚貨装置運転士免許を有する場合

・旧デリック運転士免許を有する場合

学科試験
・力学に関する知識実技試験
・運転のための合図
以下のいずれかを満たしている場合

・床上操作式クレーン運転技能講習を修了している場合

・小型移動式クレーン運転技能講習を修了している場合

・玉掛け技能講習を修了している場合

実技試験
・運転のための合図

移動式クレーン運転士免許および玉掛け技能講習の詳細は、それぞれ以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。

移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
玉掛け技能講習とは?内容や費用、合格率、特別教育との違いを解説

参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「受験資格|クレーン・デリック運転士(制限なし)」

合格率と難易度

以下に、クレーン・デリック運転士の学科試験および実技試験の合格率をまとめました。

種別 実施年 受験者数 合格者数 合格率
学科 2023年 18,564人 10,893人 58.7%
2022年 17,457人 10,103人 57.9%
2021年 16,793人 9,647人 57.4%
実技 2023年 2,133人 977人 45.8%
2022年 2,134人 998人 46.8%
2021年 2,408人 1,158人 48.1%

また、試験の難易度は、学科試験については参考書を使用したり、過去問を解いたりして対策しておかないと合格は難しいでしょう。

実技試験については、学科試験に比べて合格率が低いですが、クレーン運転実技教習の修了で免除されるため、自信がない場合は受講するのも一つの選択肢だと言えます。

参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「統計|労働安全衛生法・作業環境測定法に基づく試験」

費用

クレーン・デリック運転士の試験を受ける際にかかる費用は、以下の通りです。

  • 学科試験:8,800円
  • 実技試験:14,000円

そのほか、クレーン運転実技教習を受講する場合は、別途費用がかかります(受講費用の大まかな目安は100,000円〜120,000円前後)。

試験場所

クレーン・デリック運転士の試験は、全国(北海道・宮城県・千葉県・東京都・愛知県・兵庫県・広島県・福岡県)の安全衛生技術センターにて実施されます。

それぞれの場所で試験の実施日程は異なりますので、申し込み前に確認しておきましょう。

参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「クレーン・デリック運転士(限定なし) 免許試験日(令和6年4月~令和7年3月)」

クレーン・デリック運転士の取得の流れ

クレーン・デリック運転士の学科試験

ここからは、実際にクレーン・デリック運転士の試験を受ける際の大まかな流れを、以下の4つのステップに分けて取り上げます。

  • 申し込み
  • 学科試験
  • 実技試験(実技教習修了者は免除)
  • 免許申請

それぞれのステップごとに紹介します。

①申し込み

クレーン・デリック運転士試験の申し込み先は、全国各地の安全衛生技術センターです。申し込み方法は、オンラインシステムから申請する「オンライン申請」と、書面にて申請する「書面申請」から選べます。

書面申請の場合は、受験申請書類を用意し、作成・提出しましょう。受験を希望するセンターに提出してください。書面申請における提出方法は、「郵便(簡易書留)」もしくは「センター窓口への持参」から選べます。

センターで受験する場合、基本的に受験申請書郵送後10日以内に受験票が送付されます。

②学科試験

指定の日程で学科試験を受けます。学科試験の合格基準は、以下の通り定められています。

  • 科目ごとの得点が40%以上かつ、その合計が60%以上であること

学科試験に合格すると、「実技試験受験票」が送付されます。それ以外の場合は「免許試験結果通知書」で結果が通知されます。

③実技試験(実技教習修了者は免除)

学科試験への合格後、実技試験を受験します。ただし、実技教習を修了している場合は、実技試験が免除され、直接「④免許申請」に進むことができます。

実技試験の合格基準は、以下の通り定められています。

  • 減点の合計が40点以下であること

なお、学科試験に合格したものの、実技試験を受験しなかった場合(実技教習を修了している場合を含む)、結果は以下のように通知されます。

  • 実技教習修了者: 「免許試験結果通知書」(「学科試験 合格、実技試験未受験」と表示)
  • 実技試験未受験者: 通常の「免許試験結果通知書」

④免許申請

学科試験・実技試験ともに合格すると、「免許試験合格通知書」が送付されます。

免許試験合格通知書を受け取ったら、都道府県労働局、各労働基準監督署及び各センターで配布している免許申請書に必要事項等を記入(貼付)し、免許試験合格通知書及び必要書類を添付の上、東京労働局免許証発行センターにて免許申請を行いましょう。

この手続きをしないと、クレーン・デリック運転士の免許証が交付されません。また、満18歳に満たない人には免許証は交付されないので、満18歳になってから免許申請をしてください。

参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「受験申請から資格の取得まで」
公益財団法人 安全衛生技術試験協会「合格後の手続き」

まとめ

この記事では、クレーン・デリック運転士の種類や取得に必要な費用、試験内容・合格率・難易度などを詳しく解説しました。クレーン・デリック運転士の取得は、倉庫や工場、建設現場などで安全に作業を行うために欠かせないものです。

資格を取得すれば、倉庫や建設業界での就職やキャリアアップに非常に有利となり、安全性と効率性の向上に貢献できます。さらに、現場でリーダーシップを発揮するチャンスも広がります。

この記事を参考に、しっかりと準備を進めてスムーズに資格取得を目指しましょう。資格取得後は安全運転を心がけ、クレーンやデリックの操作に自信を持って業務に取り組んでください。

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