重機・建機の種類 2024.10.11

オールテレーンクレーンとは?ラフタークレーンとの違い、免許を解説

オールテレーンクレーンは、その名の通り、あらゆる地形での作業に対応できる高性能な移動式クレーンです。舗装された道路だけでなく、未舗装の不整地でも優れた走行性を発揮し、建設現場やインフラ整備、大規模な土木工事など、多様なシーンで活躍しています。

本記事では、オールテレーンクレーンの基本的な特徴や、類似するラフタークレーンとの違い、操作・運転に必要な免許・資格についてわかりやすく解説します。オールテレーンクレーンの導入を検討している方や、性能・用途を知りたい方は、ぜひお役立てください。

オールテレーンクレーンとは?

オールテレーンクレーンの全体像

オールテレーンクレーンとは、あらゆる路面に適応した移動式クレーン(※)のことです。大きなクレーン能力を持ちながら小回り性に優れており、狭い現場で大きい吊り上げ能力を必要とする作業に使用されています。

(※)荷を動力を用いてつり上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械装置で、原動機を内蔵し、かつ、不特定の場所に移動させることができるもののこと。

「すべての地形」を意味するオールテレーン(英語:All Terrain)の名にふさわしく、舗装道路から不整地までオールマイティに走行できます。これは、一般的なトラッククレーンが後輪駆動・前輪操舵であるのに対し、オールテレーンクレーンは全輪駆動・全輪ステアリングを備えているためです。

移動式クレーンの中でも、オールテレーンクレーンは車体が大きく、高い吊り上げ能力を持っているのが特徴です。国内最大級のオールテレーンクレーンの吊り上げ荷重は、700tにも及びます。

また、オールテレーンクレーンには、走行用とクレーン操作用の2つの運転席があります。そのため、視界が広く、クレーンの操縦がしやすいのも特徴です。

オールテレーンクレーンには、多軸方式(最大9軸18輪車)が採用されています。安定性が非常に優れており、高所への資材の運搬に適しています。

なお、オールテレーンクレーンに区分されている車両の多くが、ブーム・旋回体を走行台車に乗せたままでは道路交通法に定められた制限重量を超えてしまいます。そのため、作業現場まではブーム・旋回体・カウンターウエイトを取り外し、下部の台車のみで走行し、現場に到着後にトレーラーなどで輸送した部材を組み立ててから作業を始めるのが一般的です。

参考:一般社団法人 日本クレーン協会「移動式クレーンの知識」

公道走行に必要な許可:特殊車両通行許可証

オールテレーンクレーンが公道を走行する際には、所定の運転免許に加えて、特殊車両通行許可証の取得が必要です。

特殊車両通行許可制度とは、あらかじめ道路管理者に対して車両諸元や通行経路などを指定した特殊車両通行許可申請を行い、許可を受けた範囲内での道路の通行が認められるようになる制度のことです。

オールテレーンクレーンを含め、下表の数値基準(最高限度)を超える車両が公道を走行する際には、特殊車両通行許可証を取得しなければなりません。

車両の諸元 最高限度(一般的制限値)
2.5m
高さ 3.8m(高さ指定道路にあっては、4.1m)
長さ 12m
重量 総重量 20t(高速自動車国道及び重さ指定道路にあっては、車両の長さ及び軸距に応じ、20t、22t、25t)
軸重 10t
隣接軸重 隣り合う車軸の軸距が1.8m未満:18t(ただし、隣り合う車軸の軸距が1.3m以上、かつ隣り合う車軸の軸重がいずれも9.5t以下のときは19t)

隣り合う車軸の軸距が1.8m以上:20t

輪荷重 5t
最小回転半径 12m

参考:国土交通省「特殊車両通行制度について」

オールテレーンクレーンとラフタークレーンの違い

ラフタークレーンの全体像

オールテレーンクレーンが区分される移動式クレーンには、ラフタークレーンも挙げられます。これら2つの重機は混同されやすいので、それぞれの特徴と違いを把握しておきましょう。

ラフタークレーンは、不整地での走行性や狭い場所での取り回しに優れている移動式クレーンの一種です。別名、ラフテレーンクレーン(rough terrain crane)とも呼ばれています。ラフは「荒れた」、テレーンは「地形」を意味する英語です。

オールテレーンクレーンの最高時速は60〜70km程度であるのに対して、ラフタークレーンの最高時速は一般的に50km程度です。

また、オールテレーンクレーンの吊り上げ荷重は100tを超えるケースが一般的ですが、ラフタークレーンの吊り上げ荷重は多くのケースで100t未満です。このように、パワーにも違いが見られます。

上記の写真をご覧いただくと、ラフタークレーンの運転席が一つだけであることがわかります。一つの運転席で走行操作とクレーン操作を行えることも大きな違いです。

ラフタークレーンについて詳しくは以下の記事にまとめています。作業現場に応じた最適な重機を選ぶためにも、併せてご覧いただくことをおすすめします。

ラフタークレーンとは?サイズやメーカー、免許を解説

オールテレーンクレーンとトラッククレーンの違い

トラッククレーンの作業風景

移動式クレーンの中には、オールテレーンクレーンやラフタークレーン以外にも様々な重機が存在します。

例えば、トラッククレーン(上記の写真)は、自走して他の場所に移動できる移動式クレーンの一種です。オールテレーンクレーンが未舗装の現場や狭い工事現場を含めてあらゆる地形での作業に強いのに対して、トラッククレーンの使用が適しているのは舗装道路や都市部などです。

また、公道を走行するために必要な免許も異なっています。オールテレーンクレーンでは大型特殊免許が、トラッククレーンでは中型免許もしくは大型免許が求められるのが一般的です。

トラッククレーンについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。

トラッククレーンとは?種類や他の移動式クレーンとの違い、免許を解説

オールテレーンクレーンの免許

オールテレーンクレーンを操作するためには、移動式クレーン運転士免許の取得が必要です。

下表に、移動式クレーン運転士免許の概要をまとめました。

資格の情報 内容
費用 130,000円〜160,000円前後
試験内容・日数 【学科(13:30~16:00、2時間30分)】

・移動式クレーンに関する知識:10問(30点)
・原動機及び電気に関する知識:10問(30点)
・関係法令:10問(20点)
・移動式クレーンの運転のために必要な力学に関する知識:10問(20点)

【実技(時間は午前・午後に分けて受験票に記載)】
・移動式クレーンの運転
・移動式クレーンの運転のための合図

受験資格 18歳以上
申込先 公益財団法人安全衛生技術試験協会、各地の安全衛生技術センターなど
参考HP https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku232.html

概要は以上となりますが、以下の記事で、移動式クレーン運転士免許の取得の流れや試験の内容などを詳細にまとめています。オールテレーンクレーンを運転する予定がある方はぜひご一読ください。

移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容

なお、移動式クレーン運転士免許は、あくまでもオールテレーンクレーンの操作に必要とされるものです。オールテレーンクレーンを公道で走行させるためには、別途「運転免許」の取得が求められます。

公道の走行に必要となる運転免許は、運転する自動車の車体の大きさなどによって異なります。道路交通法においてオールテレーンクレーンは大型自動車に分類され、公道を走行するためには大型免許を取得しなければなりません。

オールテレーンクレーンをはじめ、建設機械・重機の操作・運転に必要な免許・資格について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。

建設機械・重機の免許・資格一覧!費用や日数、受験資格

オールテレーンクレーンのメーカー

オールテレーンクレーンの移動風景

本章では、オールテレーンクレーンの主要なメーカーとそれぞれの会社が提供する機種の一例をピックアップして紹介します。

  • コベルコ建機
  • タダノ
  • 加藤製作所
  • リープヘル(ドイツ)
  • XCMG(中国)

なお、オールテレーンクレーンには様々な機種があり、本章で取り上げていないメーカー・機種も数多く存在します。本記事を参考に、ご自身・自社の用途に適したオールテレーンクレーンを選びましょう。

コベルコ建機

コベルコ建機の「KMG5220」は、走行系が5軸で、最大吊り上げ能力175tを誇るオールテレーンクレーンです。

クラス最長の68mブームにより非常に高い位置での作業を可能にした高揚程と大きな作業半径。全輪独立の懸架方式・メガトラック採用により優れた走行安定性を実現し、防水・防塵構造による高い耐久性を備えています。これら優れた性能と独創の機能を搭載しています。

下表に、コベルコ建機が提供する「KMG5220」の基本的なスペックをまとめました。

型式 最大定格総荷重 ブーム長さ
KMG5220 175t×2.5m 13.33m〜68.00m

参考:コベルコクレーン株式会社「175トンづりオールテレーンクレーン『KMG5220』の販売について」
コベルコ建機株式会社「KMG5220」

タダノ

タダノの「AR-7000N」は、国内メーカー最大級の吊り上げ能力700tを実現しているオールテレーンクレーンです。特に橋梁工事などで使用頻度の高い作業半径20mにおいては、従来機「AR-5500M」から最大約35%の吊り上げ性能を向上させています。

また、ブーム性能においては、約10~40%もの大幅な性能向上を実現しているのが特徴です。

下表に、タダノが提供する「AR-7000N」の基本的なスペックをまとめました。

型式 最大定格総荷重 ブーム長さ
AR-7000N
【4段 ESPブーム】
700t×2.7m 14.9m~42.5m+0.5mヘッド
AR-7000N
【6段 ESPブーム】
300t×7.0m 15.0m ~ 64.0m

参考:株式会社タダノ「新型オールテレーンクレーン「AR-7000N」発売のお知らせ」
株式会社タダノ「AR-7000N 製品紹介 | オールテレーンクレーン」

加藤製作所

加藤製作所では、様々な種類のオールテレーンクレーンを開発・製造しています。特に「KA-1100R」は国産初の非分解型シングルエンジン仕様のオールテレーンクレーンであり、クレーン部とキャリヤ部、ブームを分解せずに公道走行できる点が大きな特徴です。

下表に、加藤製作所が提供するオールテレーンクレーンの基本的なスペックをまとめました。

型式 最大定格総荷重 ブーム長さ
KA-1100R 110t×2.0m 11.1m~51.3m
KA-1300R 130t×2.5m 11.8m~52m
KA-2200R 220t×3.0m 14.4m~55.0m
KA-3000R 300t×2.5m 14.4m~55.0m
KA-4000R 400t×2.5m 13.6m~50m

参考:株式会社 加藤製作所「KA-1100R 新発売」
株式会社 加藤製作所「製品情報|オールテレーンクレーン|KA-1100R」

リープヘル(ドイツ)

リープヘルは、ドイツの重機メーカーを母体とした企業体です。2023年のICm20(世界のクレーンメーカーランキング)では、1位にランクインしています。

リープヘルの「LTM11200NX」は、リープヘル史上最大の吊り上げ能力と2024年9月時点で世界最長のテレスコピックブームを組み合わせたオールテレーンクレーンです。

下表に、リープヘルが提供する「LTM11200NX」の基本的なスペックをまとめました。

型式 最大定格総荷重 ブーム長さ
LTM11200NX 1,200t×2.50m 18.30m〜100.00m

参考:KHL Group「ICm20: World’s largest crane manufacturers」
LIEBHERR「リープヘルモバイルクレーン|LTM11200NX」

XCMG(中国)

XCMGは、江蘇省徐州に本社を置く、中国の多国籍国有重機メーカーです。先ほど紹介した2023年ICm20では、3位にランクインしています(2021年ランキングでは1位)。

XCMGの「XCA2600」は、2024年9月時点で世界最大の吊り上げ能力を持つオールテレーンクレーンとして知られています。2022年9月には、173tの重量を持ち上げるテストをクリアしたニュースが話題となりました。

XCMGの「XCA2600」は、同クラスの製品よりも20%高い160mでの作業も可能です。また、世界初の10軸シャーシを搭載したオールテレーンクレーンでもあります。

下表に、XCMGが提供する「XCA2600」の基本的なスペックをまとめました。

型式 最大定格総荷重 ブーム長さ
XCA2600 500t×3m 19.8m~68.6m

オールテレーンクレーンをはじめとする重機メーカーについて理解を深めたい場合は、以下の記事に詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。

重機メーカーの一覧【国内、海外別に30社】

参考:PRニュースワイヤー「XCMGの世界最大の全地形型クレーンXCA2600が初の吊り上げテストに合格」
XCMG「XCA2600」

まとめ

オールテレーンクレーンは、幅広い地形での作業に対応できる多機能な移動式クレーンであり、特に大型プロジェクトや複雑な現場で真価を発揮します。

オールテレーンクレーンとラフタークレーンは、いずれも移動式クレーンとして優れた性能を持っていますが、使用する現場の特性や作業内容に応じて、最適な機種を選ぶことが重要です。また、操作には専門的な知識と技術が必要であり、適切な免許を取得していることが安全な運用の前提となります。

オールテレーンクレーンの特性を十分に理解し、正しく活用することで、作業の効率化と安全性を高めていきましょう。

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